近年、注目をされている「ウェルビーイング経営」。ウェルビーイング=幸せを意味し、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを目指す経営方針です。株式会社Enjinでは、創業時から「社員が幸せになること」を基軸とし、さまざまな社内制度を設計。ユニークで斬新な制度によって、人が集まり、業績がアップ。離職率の減少にもつながっています。「すべての制度は企業理念を達成するため」と話す執行役員の湯浅直哉さんに話を聞きました。
社会の役に立つ立派な人間を一人でも多く輩出する
―ウェルビーイング経営を始めたきっかけを教えてください。
私たちの企業理念は「社会の役に立つ立派な人間を一人でも多く輩出する」です。社会の役に立つためには、人に何かを与えていける人でなくてはいけない。そういう人になるためには「幸せになること」をベースにする必要がある。つまり、企業理念の達成とウェルビーイングがイコールになっています。
ウェルビーイングとは
健康とは、病気でないとか、弱っていないということだけでなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること
世界保健機構(WHO)憲章の前文より抜粋(日本WHO協会:訳)
―まずは自分を幸せにして、世の中に分け与えていくという考え方ですね。社員が幸せになるために多彩な制度設計をされています。特徴的なものをいくつか教えてください。
平均年齢が26.7歳で一人暮らしの社員が多いため、食生活が乱れやすくなる現状がありました。それを何とかしてあげたいと常々思っていたのですが、自分だけでは改善できない。そこで、社内のカフェで昼食と夕食を無償で食べられる「OHANAキッチン」が生まれました。栄養バランスの取れた献立を作って提供しています。
―全社員無償という思い切った制度。かなりの投資額だと思いますが、それでも食生活から社員の健康を守るべきという会社の考え方でしょうか?
そうです。健康だと意識も変わりますし、こういった環境に身を置くと社外で行動する時も食生活に気を配れるようになります。風邪で休む人は減っている気がします。仕事しているときに「体調が悪い」という声もほとんど聞かないですね。
―両親の誕生日または命日に休暇が取得できる「親孝行休暇」もユニークです。
「自分がいるのは両親がいるおかげ」という考え方を持てる人に入社してもらいたいですし、ある意味「責務」として親孝行をしてほしいです。いまはコロナ禍で直接会えないメンバーもいますが、プレゼントを贈ったり、ZOOMで話したりして親御さんに喜んでいただいていますね。実家に帰ったら写真を撮って社内専用のSNSで報告しています。
―関わりの少ない相手でも家族の顔が見えると、その人のことを大切にしたくなります。社員同士を尊重し合えるというメリットがあるのでは。
ありますね。もはや家族が掛け算されているような心持ちです。SNSに写真があがるたびに幸せな気持ちになりますし、同時に自分の家族のことも考える。社員の人数分、そういった幸せな時間が生まれているんですよね。
―ただの休暇制度ではなく、社員の人間関係を作っている制度ですね。同様に「サンクスウイーク」という感謝を伝え合う取り組みも。
月に一度、社内の誰かに対しての感謝を社内SNSに投稿し合う制度で、得票数の多い一部の社員は表彰されます。書く時に「誰に何を伝えよう」「あの人にしてもらったこと」といろいろな人のことを考え、感謝が溢れるプロセスが大切ですね。
社員の幸せトライアングルをより大きくするために
―「充実した福利厚生」としてではなく、その制度によって社員の人間性を高めたり、業績アップにつながったりする仕組みになっているのですね。
社員に、純粋な福利厚生として提供してあげたいわけではなくて、社員が「与えられる人」になってもらうためには「幸せトライアングル」の経済・健康・人間関係のバランスを保たなければいけない。そのための社内制度です。社員の幸せトライアングルを大きくするために、会社として全力で取り組むしかないと思っています。なので社員としても、社内制度は企業理念を達成するための「修行」の一つのようなものですよ。笑
―若手社員が多いですが「与えられる人になるため」の制度だという理解が浸透しているのでしょうか?
「福利厚生、ラッキー」と思っている社員もいるかもしれません。それでもいいんです。実家に帰って親孝行する、栄養バランスの取れた食事をとる。まず行動させることに重きを置いています。自分の行動と体験で、感情に記憶をさせていって、いずれ理解してくれればいい。たとえ社員じゃなくなった後も、「Enjinの考え方に触れられてよかった」と思って立派な人になってくれればそれでいいので。
―社員の幸福度が高まるにつれ業績も上がっていますが、最後に会社の業績向上と社員の幸福度の関係について教えてください。
幸福度が上がると自分に余裕が持てるため、周囲に何かを与えられる心の状態に変化し、取引先に気遣いや思いやりのあるサービスを提供できるようになります。社内においても同様で、社員同士の配慮が行き届きます。したがって仕事により集中できる環境になり、結果的に業績向上につながると考えています。
Enjinのユニークな社内制度
会社の成長やミッションを達成するためには、まず社員が必要であることが必要だと考え、創業当時から「幸せトライアングル」を整えるための社内制度設計を行っています。社員一人ひとりが幸せであるために、柔軟な働き方を積極的に推進しています。
OHANAP
毎日14:30から全社員20分間昼寝(仮眠)をする制度。NASAも認めるNAP=昼寝は、社員の生産性と健康面を向上させる目的が。電気を消し、ヒーリング音楽が流れる中、執務室で仮眠している。どうしても業務がある人は、別フロアで仕事を行っている。
1日の中でメリハリをつけた生産活動を行える
OHANAキッチン
毎日昼と夜の2回、弁当を無償提供する制度。栄養バランスを考えた複数のメニューから社員が事前に選ぶ。昼の利用率は86%、夜67%。
また、毎週月曜日は、毎週月曜に肉・魚を使わない弁当が提供されている。「ミートフリーマンデー」という世界的な運動に合わせ、週に一度肉類を食べない日を作ることで、偏った食生活を見直し、環境負荷を減らす活動。
年齢を重ねても健やかに仕事を続けられる体づくり
月曜11時ゆとり出社
月曜は、通常の9:30出社ではなく11:00始業に。制度導入の背景には、日曜夕方から翌日の仕事のことを考え憂鬱になり体調を崩す「サザエさん症候群」と月曜の自殺率の高さが。月曜の朝は気持ちと体調を整え、余裕のある状態で出社した方が逆に仕事のパフォーマンスが上がるのではと、2017年から導入。週末に地方の実家に変えるメンバーは、日曜もゆっくり家族と過ごし、月曜の朝に帰ってきてから出社できるメリットも。
限られた時間の中でどうパフォーマンスを上げるか?と考え、生産性向上につながる
サンクスウイーク
月に一度、主業務以外で自分が嬉しかったことをしてくれた人に対して「ありがとう」という感謝を社内SNSに投稿し合う制度。全社員が閲覧でき、得票数の多い社員は月初の社員全員が参加する全体会議で発表。投稿内容は「奥さんに喜んでもらえるプレゼント情報を教えてくれてありがとう」「会議室の片づけを手伝ってくれてありがとう」などさまざま。相手に対する利他心や誰かを思いやるきっかけに。
社員同士の「ありがとう」が取引先の「ありがとう」を集めることにつながる
親孝行休暇
毎年2回(最低1回)、両親の誕生日または命日に帰省することを推奨し、休暇が取得できる制度。地方出身者には、最大8割の交通費補助を行う。親孝行の形はさまざまで、高価なプレゼントや大々的なイベントではなく顔を見せるだけでOK。両親が亡くなっている場合はお墓参りを推奨。
自分に「生」を授けてくれたことへの感謝
風水に基づいたオフィス環境整備
環境心理学が関わっている「風水」を取り入れたオフィス設計。五感に対してプラスに働きかける環境づくりを行う。
- 座ったときに目の前の人と視線が合わないようにする
- フロントや出入り口に柑橘系の香りのディフューザーを設置
- 机の形状は丸みがかったものと角ばったものを配置
- 観葉植物を社内各所に設置 など
精神的に満たされる環境をつくり、快適なワークライフを過ごせる
瞑想の習慣化、瞑想ルームの完備
健康な状態を維持するために欠かせないのは精神面の充足。そのために「瞑想」を推奨。毎日の各部署での朝礼、終礼時に1分間心と呼吸を整え瞑想を行い、業務の始めと終わりに心を整えている。
社内に瞑想ルームを完備し、それぞれのタイミングで瞑想を行える場を提供。業務が立てこみ気持ちが慌ただしくなったり、急なトラブルで落ち着かなくなったりした時は、5分か10分程度瞑想ルームで心を落ち着かせている。
常にリラックスした状態を作り出し、安定した心で新たに業務に取り掛かる
オハナ旅
社員間の交流の活発化を目的に、社員同士で旅行に行く場合、年間最大5万円の補助を出す制度。制度利用者は39%を超えており、開始して5年で延べ利用者は411人。まだそれほど経済力がない状態の若手社員からも感謝の言葉が寄せられている。
部署をまたいだ先輩・後輩や同期など、社員同士の親睦を図る
モアナイン
「オハナ旅」から派生した制度で、有給や土日を活用し、最大9日間の連休を取得できる制度。よく休んで、よく遊ぶという意味の「Work Hard Play Hard」を社内啓蒙し、仕事だけでなく余暇を楽しんだり、長い十分な休みを取って日頃の疲れをしっかり癒してもらう。
余暇を充実させ、多くの経験をしながら人間としての魅力を増す
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今回の取材先
株式会社 Enjin
所在地:東京都中央区銀座5-13-16 ヒューリック銀座イーストビル8F
TEL:03-4590-0808
事業内容:PR事業
設立:2006年6月
従業員数:156名 (2021年4月現在)
URL: https://www.y-enjin.co.jp/
(取材・文:笹田理恵 / 編集:OHACO編集部)
編集者・ライター
ビジネスメディア『OHACO』の特集企画・取材を担当。アパレルデザイナーという異業種からライター・編集者に転身。得意なジャンルは、企業取材、環境活動・SDGs、ファッション産業など