藤田弁護士の法律相談所【連載 第13回】
会社はどのような責任を問われるのでしょうか?
いじめ・嫌がらせは、人の尊厳や人格を傷つけるものであり、それ自体許されるものではありません。
使用者が、いじめ、嫌がらせ防止措置をとらなければ安全配慮義務違反となり、使用者に債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償義務が生じます。
社内のいじめが外部に知られて、強い社会的な非難を受ける場合もあります。最近、従業員が自ら命を絶った事案で、亡くなる前の会社の新年会の席で、上司からその従業員を侮辱する内容が書かれた表彰状(「賞状」をもじった「症状」と題するものでした)を渡されたことが報じられ、多くの批判を受けていました。
いじめ対策が必要な理由は?
労災認定をする際の各指針では、労働者の発病した精神障害がうつ病や急性ストレス反応など業務との関連で発病する可能性のある一定の精神疾患であり、発病前の概ね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められ、業務以外の心理的負荷及び労働者側の要因による発病したと認められない場合には、その精神障害は業務上のものと認められるとされています。
こうした指針では「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた場合」は心理的負荷が「強」とされています。「部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定する言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた」場合や、「同僚等による多数人が結託して人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた」場合が一例として挙げられています。
いじめを理由に従業員が休職・退職してしまうのは会社にとって大きな損失ですし、会社が安全配慮義務違反を理由に使用者責任を追及されてしまうリスクを避けるためにも、いじめを放置せず、いじめ・嫌がらせを防止する措置を講じる必要があります。
もちろん、良好な職場環境を整備することは、企業の生産性向上や人材流出の回避にもつながり、従業員だけでなく、会社にとってもメリットは大きいと考えられます。
ちなみに学校での対策はどうでしょう?
私は、公立高校のいじめ対策組織の委員を務めており、公立中学校のいじめ防止授業にも関与していますので、学校のいじめ対策にも触れておきます。
学校教育の現場においては、平成25年(2013年)にいじめ防止対策推進法が制定、施行されており、間もなく10年を迎えようとしています。
この法律では、4条で「児童等は、いじめを行ってはならない」と、学校に在籍する児童又は生徒のいじめを法律上禁止しています。さらに、国又は地方公共団体、学校の設置者、学校、学校の教職員、保護者の責務も明記しています。
学校教育の現場では、この法律に基づき、重大事態(①生命、心身又は重大な被害が生じた疑いがあるときや②年間30日以上など相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあるとき)が発生しないよう、いじめの予防、早期発見のための措置を講じ、初期対応に積極的に取り組むよう求められています。もっとも、重大事態が発生していることが明らかであるにもかかわらず学校等が適切な対応をしないまま、生徒が亡くなってしまう事例もまだまだ存在します。
会社も、早期発見・初期対応に積極的に
学校だけでなく、会社という大人の集まりの中でも、従業員がいじめにより精神疾患を発症したり命を絶ったりしてしまうといった重大な事態が生じる前に、軽微なうちに対応することが不可欠です。
多治見さかえ法律事務所 弁護士
慶應義塾大学経済学部卒業。近くで気軽に相談できる弁護士をモットーに、取引や労務に関する紛争の解決・予防に地域密着で対応中。
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