従業員が新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に消極的! ワクチン接種を強制できるのか

藤田弁護士の法律相談所【 連載 第3回 】

従業員が新型コロナワクチン接種に消極的です。会社としてはワクチン接種を行って欲しいのですが、どのように対応するべきでしょうか?

今回は就業員が新型コロナワクチン接種に消極的な場合の会社の対応や、医療従事者の場合の対応などについて解説します。

業務命令でワクチン接種を強制することはできないでしょうか?

原則、業務命令で接種を強制することはできません。

法律上、ワクチン接種は強制されるものではありません。予防接種法9条は、ワクチン接種を「受けるよう努めなければならない」と規定しており、ワクチンの接種はあくまで努力義務にとどまっています。

現在、多くの日本国民がワクチン接種を希望するのは、日本に先駆けて接種が始まった英国、米国、イスラエルの状況から、各社のワクチンの効果や安全性がある程度判断できる状態だったからでした。メリットとリスクをどのように考えるかは人それぞれです。

アレルギー等の体質や宗教上の理由から接種を控える人もいるでしょう。
信頼度の高い情報に基づき、メリットとリスクを天秤にかけた上で判断するのが望ましいですが、最終的には接種するかどうかは個人の判断にゆだねられるべき事柄です。

ですから、業務命令でワクチン接種を強制することはできないのが原則となります。

医療従事者についてはどう考えるべきなのでしょうか?

医療従事者については、一般の人と事情が異なります。

自分自身を感染症から守るだけでなく、自分が感染源にならないよう、一般の人たち以上に感染症予防に積極的でなければなりません。院内でクラスターが発生して病院の機能が低下する事態を防ぐ必要もあります。

現に、麻疹、風疹、流行性耳下腺炎(おたふく)、水痘(水ぼうそう)については、免疫を獲得した上で勤務や実習を開始するよう求められるのが通常であり、血液・体液に接する可能性がある場合は、B型肝炎ワクチンの接種も求められています。

職業の性質と、現在確認されているワクチンの効果や安全性を踏まえると、医療従事者に業務命令としてワクチン接種を求めたとしても、違法とはいえないのではないでしょうか。

従業員がワクチンを接種せずに新型コロナウイルス感染症に感染しました。
懲戒処分にすることはできますか?

そもそも就業規則に定める懲戒の定めに当てはまるか疑問です。就業規則に懲戒の定めがあったとしても、懲戒権の濫用となる可能性が高いでしょう。

懲戒処分が有効とされるには、①懲戒することができる場合であること、②懲戒処分に客観的に合理的な理由があること、③社会通念上相当と認められることという3つの要件をクリアする必要があります。これら3つの要件をクリアしていなければ、懲戒権の濫用と判断され、懲戒処分が無効となります(労働契約法15条)。

医療従事者等でない一般の人に対し、業務命令としてワクチン接種を命じることはできません。ですから、業務命令違反を理由に懲戒処分とすることはできません。

従業員の故意または過失により会社に損害を与えたといった理由で懲戒処分とするのも難しいでしょう。単にワクチンを接種しなかったことを理由に、従業員に落ち度があったとすることはできません。

要件①をクリアするのは難しそうです。
仮に就業規則上何らかの根拠となる規定があり①をクリアできたとしても、懲戒処分をちらつかせて実質的にワクチン接種を強制することになり、客観的に合理的な理由がないとして、②をクリアすることができないでしょう。

したがって、懲戒処分をすることはできません。