Tajimingoを通じた事業の発展と街を育てるプラットフォームとは ―後編―

岐阜県多治見市で始まった地域限定のオンラインデリバリー「Tajimingo」は、参加店舗や運営、配達まで全て地元企業が担っています。
「顔の見えるオンラインショッピング」であり、中小企業同士が成長し合うプラットフォームとして、今後どんな未来を描いているのでしょうか。
株式会社トーカイ薬局の代表取締役・松本成史氏とオオマツフードを展開する有限会社大松支店の代表取締役・大嶽克正氏に話を伺いました。

「企業×企業でつくる新たなプラットフォーム Tajimingo 」前編についてはこちらをチェック

――「地域貢献」が大きなテーマであるTajimingoは、どのような取り組みを見込んでいるでしょうか。

松本:Tajimingoを通じて「地域丸ごと会員化」を目指します。
これが実現できれば、配送も各店同時に頼めて、ポイントも共通して……など、どんどんサービスが肉付けされていくと思う。
Tajimingoの事業母体はトーカイ薬局ですが、市民や協力企業がいるTajimingoで、私たちもその一員として恥じない薬局を目指さなければいけない。
プラットフォームの存在によって、消費者・事業主に「選び・選ばれる基準」が生まれるんじゃないかと思います。

――消費者もTajimingoのプラットフォームを育てる存在ですね。

松本:特に面白いと思ったのは、「ネットで頼んだオオマツさんのお肉がおいしかった。近くを通ったからちょっと中に入ってみよう」といった消費者の動きが生まれていることです。
オンラインとリアルがつながる楽しさがありますね。
普段は宅配を使っていたとしても、たまには足を運んで店に行ってみたくなるのも地元ならでは。
顔の見える地元店の商品をオンラインで利用することも一つの手段ですが、オンラインだけが便利になってしまったら、世の中に実店舗がいらなくなる。
それは違うと思う。

――ECサイト上でのサービスだとしても、オンラインとリアルが切り離されてはいけないのですね。

大嶽:オオマツフードは特に生鮮食品に力を入れています。
昔から日本人は、魚の目の色を見て、鮮度が良さを判断して買い物していた文化があります。
特に、鮮度に対しては厳しい。
やはりリアル店舗でしっかりとそういった点をアピールしつつ、ネットの便利さとうまく結びつけていけたらと思います。

松本:例えば、店頭でのライブ配信もいいですよね。
家庭によって献立のレパートリーは限られてくるじゃないですか。
ライブ配信で食材や味付けの提案をして、消費者の声もシェアして、街の皆さんでレパートリーを増やしていく。
そこで、店のバイヤーが活躍するのも面白いと思いますし、消費者から教えてもらうケースもある。
そうなっていくと、安さやポイントが店選びの理由になるのではなく、「あそこの店は面白い」と消費者も参加者になれる。
気付けば今日は、多治見中で鍋を食べている、焼き肉を食べている、みたいなことが起こっても面白い。
そういった取り組みが進むと広告費を減らすこともできるかもしれません。

有限会社大松支店の代表取締役・大嶽克正氏

大嶽:実際に、折込広告等の費用対効果は年々下がっていると感じています。
けれど、ずっと続けてきたことだからなかなかやめられない。地域のお客様に愛される店づくりのためにも、Tajimingoが良いきっかけになってくれたらという期待は大きいです。

――これをきっかけに、経営判断も変わっていきそうですね。

松本:地域のお客様の「移動販売でもいいから近くに来てほしい」という声に対し、今までは人手、車を用意して食材を持っていくのは難しかったけれど、Tajimingoで広告コストが削減できれば移動販売に充てる費用を賄えるかもしれない。
できることが増える可能性はあるはずです。

大嶽:「チラシを打てばお客様は来るだろう」という安易な考えから、もっと深いところに入っていけるかもしれないですね。
大手との価格競争に巻き込まれていたら、私たちの勝ち目は絶対にない。違う勝負の仕方を考えていかなくちゃいけない。

松本:それこそうまく経営をするために、とテクニックに走りがちです。
経営している自分たちも知らない間にまやかしになっているような状況は、少し間違えただけで十分陥ってしまう話だと思う。

――一見すれば、すぐに効果が出る取り組みではなかったり、本業よりも手を広げるために手間が生まれたりもすると思います。
しかし、持続可能な経営を考えると新しい分野へのチャレンジは欠かせないのでしょうか?

松本:確かに芽が出て伸びるまでは大変です。
時間がかかるかもしれないですが、芽が出たときの根の強さやそこからの発展力を考えると、しっかり太い幹をつくることが先立つはず。
今は、見かけだけ“大きい木”をつくることはやろうと思えばできますよね。
資本力を持っていたらなおさら。
でも、そこを目指したくはない。
シェアしながらみんなで取り組めば、一社だけだったら10倍、100倍かかることも実現可能になる。
うちもTajimingoを一社で始めたところで発展はしないでしょう。
オオマツさんをはじめとした皆さんとのご縁、そのおかげでTajimingoという形になっていると思います。

多治見駅と多治見市役所本庁舎に設置されているスマートロッカー

――異業種間でのコラボもどんどん広がっていきそうです。

大嶽:健康というキーワードは、今後勝負していくのには必要じゃないかなと。
食事制限が必要な方にアピールするべきは値段じゃないと思う。

松本:糖尿病の患者さんから食材が手に入りにくいと聞きます。
県をまたいでわざわざ買いに行くこともあるのだとか。
今はネットで手に入るけれど、本当にその商品でいいのか、できたら相談しながら考えたい、とお困りの方も多々いるはずです。
健康には基準がなくて、年齢や性別によっても違う。
一人一人の健康な生活、どういうレベルが自分に合うのかを一緒に考えてあげることは安心につながるでしょうね。

――Tajimingoを利用する人の顔も見えるサービスになりそうです。

松本:数値で測れる部分でいうと、地域特性や消費者の傾向は掴めるとは思います。
そこに加えて、「多治見ってこういう街」「多治見に暮らす人はこういう人が多い」といった感覚値も見えてくると思う。
そうすると街づくりの発展に貢献できて、多治見に住みたい人が増えてくる、ということまで関与できたら面白いですね。
いろいろな業種の方ももっと集まって来る街になると良いなと思います。

株式会社トーカイ薬局の代表取締役・松本成史氏

――最後に、今後のTajimingoに対する目標やビジョンをそれぞれお聞かせください。

大嶽:やはり同じ街で商いをやっている企業さんとつながりが生まれることにすごく期待をしています。
このインタビューでも、僕らが日常の中では得られない情報ばかりです。
逆に、僕らが当たり前としていることは傍から見たら当たり前じゃない。
うちの中では大したことだと感じない情報でも、他の企業さんたちと話すことによって情報の生かし方が分かる。
同じ地域で、中小企業の皆さんが手を取り合い、これからの未来を考えていくこと。
競合他社とともに切磋琢磨しながら、より多治見市民のお客様に求められるサービスへと成長していけたらと思っています。

松本:同業同士、異業種同士で「思い」と「商売」のバランスをどう整えるのか。
Tajimingoで本当の難しさを感じるのは、そのバランスづくりじゃないでしょうか。
協業の難しさという点においては、定期的に「目指すものは何ですか」といった対話も必要かもしれない。
純粋に商売や仕事をして、みんなが喜んで地域の発展につながっていけたら、というシンプルな視点に戻しながら、前に進んでいければいいなと思います。
Tajimingoがプラットフォームとしての便利なサービスだけじゃない「基準を考えるテーブル」となっていければいいですね。

Tajimingo
https://tajimingo.com/

今回の取材先

株式会社トーカイ薬局
本社所在地:愛知県春日井市中央台7丁目9-2
設立:1990年
URL: http://www.tokai-pharmacy.com/

有限会社大松支店
本社所在地:岐阜県土岐市下石町888-6
設立:1930年
URL: https://oomatsufood.co.jp/

(取材・文:笹田理恵)