2020年当初から新型コロナウイルス感染症が拡大し、それとともに「テレワーク」という言葉が広がりました。
またテレワークは、以前より「働き方改革」を推進するための重要な要素と考えられていました。
コロナ禍の影響により大企業ではテレワークの導入が進んでいるものの、中小企業ではあまり進んでいないようです。
なぜなのでしょうか。
今回は、中小企業でテレワークを導入する際の課題と対策、導入事例について解説します。
1.中小企業でテレワークが進まない理由
2021年11月に東京商工会議所が実施した「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」によると、東京23区における中小企業のテレワーク実施率は31.2%でした。
一方、従業員数301人以上の大企業では54.5%と、半数以上がテレワークを導入しています。
中小企業でテレワークが進まない理由としては、従業員が自宅などで業務をする際に使用するパソコンや周辺機器、通信費、労務管理などにコストがかかること、またコストをかけてもそれに見合う効果が得られるか懸念されていることなどが挙げられます。
そして、中小企業は取引先である大企業の方針に従わなければならないケースが多いです。
そのため、取引先が業務をデジタル化・ペーパーレス化していなければ、テレワークの導入・実施が難しい場合があります。
2.中小企業でテレワークを導入するメリット
テレワークを導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
生産性の向上
テレワークを実施することにより、出勤や移動にかかる時間が削減されます。
この時間を業務に充てることで、生産性の向上が期待できます。
特に都市部に住んでいる人や遠方から通勤している人にとっては、満員電車や長時間移動から解放され、心身のストレスの解消につながり、効果は絶大です。
人材不足の解消
常にテレワークが可能であれば、地域を問わずに従業員を採用することが可能になり、優秀な人材の確保につながります。
また、育児や介護により就業が難しい場合でも、勤務場所の制限がなくなるため、自宅で育児や介護を行いながら働くことができます。これは、貴重な人材の離職防止につながります。
コスト削減
利便性を重視し、駅に近い場所にオフィスを構えている企業も多いと思いますが、立地が良いと賃料が高くなります。テレワークを導入し通勤回数を削減できれば、賃料の低い物件に引っ越したり、面責を縮小したりすることでコストを抑えることができます。
また、従業員の出勤回数を減らせれば、交通費や電気代、消耗品といったコストの削減も可能です。
3.テレワーク導入の課題
ここでは、中小企業がテレワークを導入する際に課題となっていることについて、具体的に考えてみます。
進行管理がしにくい
出社していれば会社で顔を合わせ、朝礼や定例会議、休憩時間のちょっとした会話によってコミュニーケーションを図り、業務の進捗状況を確認することができます。
しかし、テレワークではそれらを行うことが難しくなり、進行管理がしにくくなります。
また、何らかのトラブルやヒューマンエラーが起こっても、すぐにフォローできないこともあります。
労働・勤怠管理が難しい
テレワークでは、出勤時や退勤時にタイムカードを押すことはなく、就業中の様子を確認できないため、勤怠管理が難しくなります。
例えば、勤務時間内に外出して業務を行っていなかったり、勤務時間を超えて業務を行ったりしても管理者にはわかりません。
また、勤怠報告を義務付けたとしても、信頼度は低いでしょう。
ワークフローが合わない
例えば稟議を通す際、紙の文書を提出し捺印してもらっている場合、テレワークでは同じように行うことができません。
そのため、テレワークに合わせてワークフローを見直し、システムを導入するなどしてペーパーレス化を進めていく必要があります。
セキュリティが心配
テレワークでは、会社のパソコンを社外へ持ち出したり、業務で使用するデータを社外で扱ったりするため、情報漏洩のリスクが高まります。
テレワークを導入しない理由に、セキュリティの確保が難しいことを挙げる企業は多いようです。
環境整備にコストがかかる
テレワークを導入する際は、パソコンの支給、通信環境の整備、クラウドツールなどのシステム費用など、一定のコストがかかります。
多くの初期コストがかかることが考えられますが、先述したように、テレワークにより削減できるコストもありますし、テレワーク導入のための助成金制度を活用すれば、負担の軽減を図れます。
生産性が低下する
会社には十分な作業スペースがあり、スペックの大きなパソコンや周辺機器がそろっており環境が整っています、しかし、自宅はそのような環境ではないため、生産性の低下は否めません。
コミュニケーションが取りにくい
会社では近くに同僚や上司がいて、すぐに声をかけて質問したり、課題を解決したりすることができます。
しかしテレワークではその機会が限られ、コミュニケーションや連携の不足を招き、それにより孤独感を助長し、業務に支障を来たしかねません。
4.課題への対策
前項で示した課題に対して、次のような対策が考えられます。
ICTツールの活用
〈コミュニケーションツール〉
コミュニケーションや連携の不足には、社内用のビジネスチャットツールやビデオ通話が可能なWeb会議ツールなどの導入を検討しましょう。
これらを導入することにより、顔を合わせる機会の少ないレテワークでも、十分にコミュニケーションを図ることができます。
使用する際は、相手が離席している可能性もありますので、時間を決めておくとよいでしょう。
そうすることで、業務に影響しにくくなります。
〈クラウドシステム〉
進行管理や勤怠管理には、さまざまなクラウドシステムが提供されていますので、自社に合ったものを選んで導入することを検討してみましょう。
また、経理などの基幹業務システムや情報共有が可能なオンラインストレージ、ペーパーレス化ツールを導入することで、事務関係の業務もテレワークでスムーズに行うことができます。
〈セキュリティツール〉
社外で仕事をすることで生じるセキュリティリスクに適したツールがあります。
データ使用後に自動的に削除されるセキュアブラウザ、私物のデバイスでも業務ソフトに暗号化アクセスが可能なセキュアコンテナを使えば、社外で作業をしてもパソコンにデータが残らず安全です。
また、ツールではありませんが、外部への情報漏洩防止のため、パスコードロックをしたUSBデバイスの使用、アクセス管理や通信の暗号化、会社からWi-Fiルーターを支給、VPN(拠点間をつなぐ仮想的な専用ネットワーク)回線の使用も有効です。
ワークフローの見直し、意識改革
前項で述べたツールの活用と並行して、出社勤務を前提としたワークフローを見直し、新しいワークフローを浸透させるために意識改革を行うことが大切です。
例えば、チャットツールやメモツール上で指示を出し、完了したら報告すること、1日の仕事の成果と稼働時間を日報に記載して生産性を計測するといったルールを設定します。こうすることで、顔を合わさなくても勤務態度を評価しやすくなります。
ただし、これらのルール設定は、トップダウンではうまく機能しません。企業全体で「テレワーク推進に向けて働き方を見直す」という意識を醸成することが大切です。
手当の支給や助成金の活用
テレワークを行う環境を整えるためには、会社から支給されるパソコン以外に、デスクや椅子、通信環境などが必要ですが、これらを個人でそろえるには負担が大きいです。
個人負担を軽減するため、テレワークによって削減が期待できるコストを手当として従業員に支給することを検討してみましょう。
また、関係府省庁、地方自治体では助成金などの支援制度を設けていますので、活用してみるのもよいでしょう。
5.中小企業でのテレワーク導入成功事例
実際に中小企業でテレワークを導入し成功した事例を紹介します。
株式会社Orb
株式会社Orbは従業員数13人の、美容品をインターネット販売している会社です。
Orbでは、勤務時間1分単位で給料が発生するマイクロジョブをテレワークで導入しました。
これにより、子育て中など忙しい人でも隙間時間に仕事ができるようになり、職場環境を整えたことで人材確保につながりました。また、閑散期には大幅にコストを削減することができました。
シックス・アパート株式会社
シックス・アパート株式会社はソフトウェア開発企業で、コンテンツ管理システムの開発や販売、コンサルティング業務を行っています。
シックス・アパート株式会社では、従業員の意思で出社か在宅かを決めることができます。
また、遠隔地のエンジニアを採用する考えがあったため、テレワーク前提のシステムを構築しています。そして、従業員同士のコミュケーションを活性化させるため、チャットBotを運用して定期的に話のネタを配るという取り組みも行っています。
株式会社流研
株式会社流研は従業員数66人の、ソフトウェアやIT関連機器の開発を行っている会社です。
育児休暇中の女性従業員からテレワークの要望が出たことをきっかけに導入することになりました。
当初はコミュニケーションがきちんと取れるか不安があったようですが、従業員はIT機器に慣れていたこともあり、大きな問題はなかったそうです。
このことがメディアに取り上げられ、企業のイメージアップと顧客の増加につながりました。
6.まとめ
テレワークの導入には、環境整備やワークフロー見直しなどの手間や初期コストがかかります。
その反面、得られるメリットは大きく、今後加速する働き方改革や労働人口の減少への備えとして、テレワークは一案となるでしょう。
編集者・ライター
フリーの編集者。書籍や情報誌などのデザインを携わる。主に看護・介護業界の情報誌の編集に携わり、グルメ・カルチャー・スポーツのジャンルの編集の経験あり。