エンゲージメント(engagement)には、「約束」「契約」「債務」「婚約」などの意味があり、使用する場面によって意味合いが変化します。SNS投稿に「いいね」やコメントするなどの反応を示すこともエンゲージメントと呼ばれますが、ビジネスシーンにも使用される場面があります。
今回は従業員エンゲージメントとは何か、その必要性とエンゲージメントを高める方法について詳しく解説します。
1.エンゲージメントとは
ビジネスシーンにおけるエンゲージメントは、2者の間の信頼関係が構築されていることを示します。種類は「企業対顧客」の顧客エンゲージメントと、「企業対従業員」の従業員エンゲージメントの2つです。次に、それぞれのエンゲージメントについて解説します。
顧客エンゲージメント
顧客エンゲージメントは、企業と顧客のつながりの強さを示す言葉です。
顧客が企業によい印象を継続的に持っていると、商品を購入したりサービスを利用したりするなどの行動を起こしてくれます。これに加え、顧客から商品やサービスの改善につながる意見を得られることがあります。このような企業と顧客の双方向の関係を、顧客エンゲージメントと言います。
従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントは、企業と従業員の信頼関係の強さを示す言葉です。
従業員は企業に貢献すること、企業はその働きに報いることを約束し、影響し合いながら絆を深め、成長を目指して信頼関係を強めていきます。このような企業と従業員の双方向の関係を、従業員エンゲージメントと言います。
従業員エンゲージメントを構成する要素は、企業や組織に対する理解と信頼感、貢献意欲の3つです。このことから、現状あまり活躍していない従業員であっても、高い従業員エンゲージメントを持っている可能性があります。
従業員エンゲージメントが高いと、経営にプラスの影響をもたらすと言われています。「従業員エンゲージメントが高い」という表現は、従業員エンゲージメントが高い従業員が多いことを示しており、企業はこの状況を目指すべきです。
2.従業員満足度との違い
従業員エンゲージメントとよく似た言葉に、「従業員満足度」というものがあります。従業員満足度とは、労働環境、上司と部下の良好な人間関係、福利厚生などの面から見た、職場の居心地のよさを表す言葉です。これは、職場に対する従業員の一方向的な考えであり、双方向の関係を意味する従業員エンゲージメントとは異なります。
仮に現状に満足していたとしても、それが将来もずっと続く保証はありません。満足感を得られるレベルに到達すれば、さらに上を目指そうとする従業員は多く、現状維持は満足感を薄れさせモチベーションを低下させかねないからです。
その点、従業員エンゲージメントは先述したように企業や組織に対する理解と信頼感、貢献意欲によって構成されており、満足度には直結しないため、従業員が現状に満足していなくても向上させる可能性があります。
3.従業員エンゲージメントが求められる理由
従業員エンゲージメントが大切であることはわかりました。では、なぜ今、従業員エンゲージメントが求められているのでしょうか。それは、優秀な人材の流出を食い止めるためです。
現在、終身雇用制度は事実上崩壊し、実力による報酬体系が主流になりました。そのため、優秀な人材ほどキャリアアップしようと待遇のよい職場を求め離職していきます。優秀な人材をとどめておく条件が報酬などの待遇だけでは、流出を防ぐことはできません。
そこで必要となったのが、待遇面以外での従業員との強い絆です。従業員エンゲージメントが求められる理由はここにあります。
4.従業員エンゲージメントを高めるメリット
従業員エンゲージメントを高めると、どのようなメリットがあるのか考えてみましょう。
離職率の改善
企業や組織への理解が深く、信頼感や貢献意欲を持っているという、従業員エンゲージメントが高い状態であれば、その企業を離れたいとあまり考えないはずです。従業員エンゲージメントを高めることは、優秀な人材の離職を防ぎ、経験の豊富な熟練者の育成・定着につながります。
優秀な人材の確保
離職率が低くなれば、就職活動や転職活動を行っている求職者への印象がよくなります。また、従業員エンゲージメントを高めようとする姿勢が伝わり、企業理念を理解でき、信頼するのに十分な企業だと認識されれば、求人への応募が増え、優秀な人材の確保につながりやすくなります。
職場の雰囲気の改善
従業員エンゲージメントが高まれば、企業に積極的に貢献しようと考える従業員が増え、職場の雰囲気が明るくなり、コミュニケーションが活発になります。これにより、業績が向上する可能性が高まります。
モチベーションのさらなる向上
業績が向上すれば、従業員の貢献意欲を満たし満足感につながります。また、成功体験を得ることで、モチベーションがさらに向上することが見込めます。
顧客満足度の向上
意欲的な従業員が商品やサービスを提供することで、顧客満足度も向上しやすくなります。また、雰囲気が明るく、業績が向上している職場では負の感情が生まれにくいため、顧客対応を高いレベルで維持することも可能です。
売上・利益の増加
ここまで見てきたように、従業員エンゲージメントを高めることであらゆる状況が改善・向上され、好循環が生まれます。これにより、売上や利益が生まれる状況をつくりやすくなります。
5.従業員エンゲージメントを高める方法
ここでは、従業員エンゲージメントを高める方法について見ていきます。
現状の従業員エンゲージメントの把握
まず、従業員エンゲージメントの高さはどれくらいか、現状を知ることから始めます。人事戦略を考える上で、従業員エンゲージメントを最も重要な要素ととらえ、定期的に社員意識調査を行い施策に反映している企業もあります。
企業理念などの明確化
どこを目指し、何を考えて行動するのかあいまいなままでは、従業員から理解や信頼感を得ることはできません。企業理念やビジョンなどについて施策を交えて明確に示し、共有しましょう。
社会に企業の存在を示す
自社が社会的に必要な企業だと認識されることは、従業員エンゲージメントを高める上で重要です。貢献できる内容やPR方法を検討し、社会に認識してもらえるよう活動することが大切です。
コミュニケーションの活性化
従業員エンゲージメントが高まれば、コミュニケーションが活発になると先述しました。裏を返せば、コミュニケーションが活発でなければ従業員エンゲージメントは低いと考えられますので、コミュニケーションが活性化される取り組みを行いましょう。
ワーク・ライフ・バランスへの対応
新入社員の入社後、配属先は会社が決めることが多く、ワーク・ライフ・バランスが取りにくい状況があります。昨今、社会構造の変化などにより、働き方の多様化が進んでいます。そのため、従業員が自分らしい働き方ができる企業だと感じられる環境を構築することが求められます。
キャリア形成の明確化
企業理念やビジョンを目指す先に、従業員個々のキャリアアップがあることを明確に示す必要があります。それにより、企業に対する理解や信頼感、貢献意欲の向上につながります。
人事評価と報酬の明確化・適正化
従業員エンゲージメントが必要とされる理由は、待遇面以外で従業員との強い絆を作ることです。そのため、待遇面を左右する人事評価や報酬が不明確で不適正では意味がありません。きちんと評価され、それに見合う、またはそれ以上の報酬になっているか見直しましょう。
福利厚生の充実
従業員エンゲージメントを高めるのに、健康であることは前提条件です。また、高い従業員エンゲージメントを持っていても、健康を損なえば能力を発揮することはできません。健康経営を推進するためには、心身をリフレッシュできるよう福利厚生を整え、充実させることが重要です。
6.まとめ
終身雇用や年功序列、配属先を選べないといった従来の日本型雇用システムが影響し、従業員エンゲージメントが向上しにくい状況があります。今後、企業が発展していくためには、従業員個々の適性や希望にも目を向け、従業員エンゲージメントが高まるよう取り組み、働きやすい環境を整備することが大切です。
編集者・ライター
フリーの編集者。書籍や情報誌などのデザインを携わる。主に看護・介護業界の情報誌の編集に携わり、グルメ・カルチャー・スポーツのジャンルの編集の経験あり。