「マズローの法則」~欲求を人間関係づくりに活用しましょう~

ビジネス こころと体の健康増進室【 連載 FILE 017 】

マズローの法則とは、人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されているとする心理学理論です。アメリカの心理学者、アブラハム・マズロー(1908~1970)が考案したもので、「マズローの欲求五段階説」「自己実現理論」などと呼ばれることもあります。
人間の欲求には「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5段階があります。

(1)生理的欲求

生理的欲求とは、マズローの5段階説の中で最下層の第一段階の欲求です。この階層は、食事や睡眠、排せつといった人間が生きていくための本能的な欲求を示した階層です。動物の場合は、生命維持に必要なこの基本的な欲求が満たされると満足する種類がほとんどです。しかし、人間の場合、生命維持に最低限必須なこの階層に欲求が留まることは一般的ではありません。特に、現代の日本において、この生理的欲求段は憲法上でも満たされることが約束されたものと考えられています。

(2)安全の欲求

安全の欲求とは、身の危険を感じるような状況から脱したいという欲求です。
心身共に健康、かつ経済的にも安定した環境で、安心して暮らしたいという欲求であり、現代では多くの人が意識することなく日常を送る、かなえられて当然の欲求といえるでしょう。ただし、成長発達の過程にある乳幼児の場合、安全の欲求が顕著に見られます。「保護者と離れると不安がる」「暗闇を怖がる」などし「保護者がそばにいる明るい場所を好む」といった行動は、幼児に見られて当然の様子で、成長するにつれ次の段階へと進みます。

(3)社会的欲求

社会的欲求とは、集団に所属したり仲間を得たりしたいという欲求のことです。
「所属と愛情の欲求」ともいわれることもあります。具体的には、家族や友人、会社などから受け入れられたいと願う欲求です。このような社会的欲求は「帰属欲求」とも呼ばれ、社会的欲求が満たされない場合、多くの人が孤独を感じ、エスカレートすると鬱などになりやすい側面もあります。現代社会を生きる人間にとっては所属できる集団が必要不可欠だと言えるでしょう。

(4)承認欲求

近年よく耳にするようになった承認欲求とは、他者から認められたいと願う欲求のことです。「所属している集団の中で認められたい」「他者から尊敬されたい」といった欲求です。 
一般的な「出世欲」もこの承認欲求に当てはまると考えられています。第三階層までの外的な欲求と違い、「自分の内面を満たしたい」欲求といえるでしょう。
あまりよくない意味で使われることが多い承認欲求ですが、承認欲求を満たすことは行動のモチベーションに繋がります。他社と比べるのではなく、自分のポテンシャルに気付いて自分自身を成長させる原動力にしていくとよいでしょう。

(5)自己実現欲求

第1階層から第4階層までの全ての欲求が満たされた場合に至るのが自己実現欲求です。自己実現欲求とは、自分が満足できる自分になりたいという欲求のことで、第1階層から第4階層までの欲求を満たした上でないと実現できないと考えられています。自己実現の欲求は、自分の人生観・価値観などに基づいて「自分らしく生きていきたい」と願う欲求とも言えます。これまでの欲求と違い、「自分の生き方と向き合わなければ満たせない」という特徴があります。

無人島に流れ着いたと仮定してみてください。何もない無人島で、あなたはさまざまなものを欲求するはずです。空腹を満たすための食べ物も欲しいし、安全に暮らせる家も欲しいし、話し相手になってくれる友達も欲しい、と思うでしょう。
しかし、最初に心配する問題は何でしょうか? きっと「食べ物」であるはず。食べ物を確保できなければ、すぐに飢えて死んでしまうからです。家や友達がなくてもしばらく死ぬことはありませんが、食べ物は、生命の維持に直結する最も基本的なものですからね。空腹が満たされた後で初めて、「家を造ろう」(安全の欲求)、「ほかに仲間がいないか探そう」(社会的欲求)など、次の段階の欲求へと進んでいくことができます。

(6)6段階目の欲求=「自己超越」

マズローの欲求には、自己実現の欲求よりも一段階上の「自己超越の欲求」が存在しています。「自己超越の欲求」は後年マズローが付け加えたもので、自分のエゴを超えたレベルでの理念の実現を目指すものです。自己実現の欲求は、たとえば「世界の貧困をなくす」などの自分の外側にあるものに対する貢献を指します。具体的には慈善活動や寄付などは自己超越の欲求だといえるでしょう。そして、これら5つの欲求にはピラミッド状の序列があり、低次の欲求が満たされるごとに、もう1つ上の欲求をもつようになるのです。

6段階目の欲求「自己超越」をのぞいた、マズローの5段階欲求は、それぞれの性質の違いによって3つに分類されます。
・「物質的か精神的か」
・「外的か内的か」
・「欠乏か成長か」
この分類は、一般的に「マズローの5段階欲求の3分類」と呼ばれています

(1)物質的か精神的か

「生理的欲求」と「安全の欲求」は人として生きるために必須の欲求であるため、物質的欲求です。
一方、「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の3つは生命維持に必要ではありませんが、心の満足度にかかわる欲求であることから精神的欲求に分類されます。

(2)外的か内的か

「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」の3つは、自分の外側にある外部環境を満たしたい、満たされたいという欲求で外的欲求です。一方、「承認欲求」「自己実現欲求」に関しては自分の内面を満たしたいという欲求になることから、内的欲求に区分されます。

(3)欠乏か成長か

「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」は、自分に不足しているものを満たしたいという欲求なので、欠乏欲求です。一方、「自己実現欲求」については全ての欠乏が満たされた状態で自分を高めたいという欲求で「成長欲求」に区分されます。 

マズローの欲求5段解説はそれぞれの段階に、自社の事業を照らし合わせて分析することにより、マーケティングにも活用できます。
ハウスメーカー、不動産業などにおける顧客のニーズは「雨風をしのげる家が欲しい」→「安全に暮らせる家が欲しい」→「平均的な家に住みたい」→「みんなにすごいといわれる家に住みたい」→「自分らしい暮らしが実現できる家に住みたい」とマズローの欲求5段階説に合わせてターゲットやサービス展開に反映できます。このように顧客のニーズをマズローの欲求5段階説の最下層から当てはめて分析することで、自社のビジネスの中で顧客のニーズを満たせていない部分、足りない事業が明らかになるでしょう。マーケティングとは、いわば商品が売れる仕組みを作ることです。

マーケティングの例では顧客の欲求を洗い出しましたが、自分自身の欲求に対して目を向けてみましょう。「自分は仕事に何を求めているのか?」という欲求を書き出すことで、仕事のモチベーションを可視化するのです。たとえば、

  1. 生理的欲求:生活のためにお金を稼ぎたい
  2. 安全の欲求:過重労働やハラスメントの無い快適な職場で働きたい
  3. 社会的欲求:同僚や上司と良好な人間関係を築きたい
  4. 承認欲求:仕事の成果を認めてもらって出世したい
  5. 自己実現欲求:仕事を通して社会貢献をしたい

自分の欲求を洗い出し、現状を比べることで今の仕事に何が不足しているのかを具体的にしてみましょう。承認欲求が満たされていないのだとわかった場合、休日にスキルを磨いて業務の効率化を図るなど、業績・評価をアップさせる取り組みをすることでモチベーションにつながると期待できます。あるいは、同僚との人間関係に問題があって社会的欲求が充足されていないと分析されたなら、業務中のコミュニケーションを増やしたり、親睦会などを通じ同僚との関係性を深めたりしていくことで、職場をより快適に改善していけそうだということになりますね。
暮らしが豊かになった今の日本では「生理的欲求」や「安全の欲求」はほとんどの人が満たされています。しかし、周囲の人に受け入れてもらいたい、尊敬してもらいたい、認めてもらいたいという「親和欲求」や「自尊欲求」は生活基盤がいくら整っていたとしても満たされるものではありません。相手が話をしている時には相槌を打ったり、話の笑いどころでは一緒に笑ったりして、相手を尊重する行動をとることで、人間関係が改善されていき、その積み重ねで自分の欲求も満たされていくことでしょう。
自分がされて嬉しいことを、まずは自分から相手にしていくといいですね。
働き方や自社のマーケティングに活かせるよう、自分の周りにある「欲求」を意識してみましょう。