持続化給付金詐欺で従業員が逮捕された場合の対応とは。今すぐ解雇はできる?

藤田弁護士の法律相談所【 連載 第2回 】

従業員が持続化給付金の不正受給に関与したとして詐欺の疑いで逮捕されました。会社としてどのように対応すればよいでしょうか。

今回はこのように従業員が詐欺などで逮捕された場合の対処法や、すぐに解雇させることができるのか?という疑問について解説します。

そもそも持続化給付金詐欺とはどのようなものですか?

本来、自営業者や中小企業しか受給できなかったはずの持続化給付金を、自営業者でない会社員や主婦、学生が不正に受給した事案が全国で相次いでいます。

多くの事案では、不正受給が組織的に行われています。
犯罪グループが、「会社員や主婦でも100万円がもらえる」などと言って、ネットや口コミで受給希望者を募り、虚偽の申請書類を用意するなどして申請の手続きを代行し、希望者の口座に100万円を振り込ませると共に、その一部を犯罪グループや末端の紹介者が報酬として受け取っていたようです。

単に不正受給しただけであれば、100万円を返金することにより、起訴され有罪判決となっても執行猶予にとどまる場合も多いようです。
しかし、犯罪グループの末端として何人もの人を勧誘し紹介料や報酬を受け取っていたとなると、初犯でも実刑となる可能性が高まります。

この従業員を今すぐ解雇することは可能でしょうか?

有罪判決が確定するまで、有罪であることを前提とした対応はとるべきではありません。
さらに、懲戒解雇が可能かどうかは、慎重に判断する必要があります。就業規則に、社員が犯罪行為をした場合に懲戒解雇できるとの規定があったとしても、後から解雇が無効となる場合もあります。

鉄道会社の従業員が電車内で痴漢をした場合でも、判断が分かれています。以前にも同様な行為で繰り返し検挙や処罰され、昇給停止や降職にもなっている場合には懲戒解雇は有効だとされましたが(東京高裁平成15年12月11日判決)、罰金刑にとどまり、行為の悪質性が比較的低い事案については、諭旨解雇は重きに失し無効だとされています(東京地裁平成27年12月25日判決)。

裁判所は、行為の態様、悪質性、結果の重大性、勤務態度など具体的な事情に照らし、懲戒解雇や諭旨解雇が有効かどうか判断しているのです。

持続化給付金詐欺でも、先述したように、単に不正受給しただけであれば、100万円を返金することにより、起訴され有罪判決となっても執行猶予にとどまる場合も多いようです。
このような場合に懲戒解雇をしてしまうと、処分が重すぎるとして無効となる可能性があります。

一方、犯罪グループの末端として犯罪グループに人を紹介し紹介料を受け取っていたとなると、行為の悪質性や、被害の合計金額の大きさ、社会的影響などから、解雇もやむを得ないと言えそうです。

有罪判決を待たずに退職させたい場合には退職勧奨を

有罪判決を待たずに退職させたい場合には、自主的な退職を促す退職勧奨をとることが考えられます。

ただし、逮捕されてから勾留されるまで(72時間以内)は、家族も含めて弁護人以外、本人に接触することができません。

共犯者のいる詐欺事件の場合、勾留後も弁護人以外は接見禁止となる可能性が高く、その場合、勾留後も面会はおろか、手紙のやり取りもできません。
仮に接見禁止がついていなくとも、刑事施設での面会時間は制限されます。本人の弁護人を介してやりとりをすることが望ましいです。

給与については、本人が有給休暇を申請していない限り、ノーワーク・ノーペイの原則に従い無給とすべきです。就業規則に起訴休職の定めがある場合、起訴後は、この規定に基づき対応をする必要があります。