企業をめぐるSNSトラブル

藤田弁護士の法律相談所【 連載 第9回 】

昨今、いわゆる「バイトテロ」として、アルバイト従業員がSNSや動画サイトに職場での自らの不適切な行為を撮影した動画をアップロードし、SNSで拡散されてしまう事案が散見されています。
中には店舗の閉店や会社の倒産にまで至るケースもありました。

不適切な行為を撮影した動画の投稿・拡散だけでなく、その他、従業員が店に有名人が来訪したと暴露したり来店客の悪口を書き込んだりする情報漏洩、SNSの公式アカウントでのヘイトスピーチなどの差別的発言や性的表現、個人アカウントに書くはずの内容を誤投稿してしまうといった不適切な投稿なども問題になっています。

従業員に対し懲戒処分することができるかどうかについては、就業規則に定める懲戒事由に当たるか、そして選択する処分が相当と言えるかが問題となります。
就業規則に定める懲戒事由に当たる場合でも、処分の内容は、懲戒事由の程度・内容に照らして相当なものでなければなりません。
そうでなければ懲戒権の濫用として処分が違法・無効となります。

従業員には、労働契約上の義務として企業秩序維持義務があります(最高裁平成8年3月28日)。
企業情報の漏洩は、企業秩序を現実に侵害する場合は懲戒事由となります。
さらに在職中の従業員には、秘密保持義務もあります。
情報漏洩は秘密保持義務違反にも当たり得ることとなります。

プライベートな投稿の炎上については、投稿内容や企業秩序に与える影響などを考慮して懲戒事由に該当するかを検討する必要があります。
動画の内容から、勤務時間内に不適切な行為をしていたことが判明した場合には、職務専念義務違反や服務規律違反として懲戒事由に当たる可能性が出てきます。

従業員に対する損害賠償はどの程度認められるのでしょうか?

昭和51年7月8日最高裁判決(茨城石炭商事事件)では、使用者が被用者の行為により直接損害を被るなどした場合、使用者はその事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に右損害の賠償を請求または求償できるものと解すべきであるとしています。

ですから、労働者の帰責性、労働者の地位・職務内容・労働条件、損害発生に対する使用者の寄与度を考慮し、責任が否定されたり、2分の1から4分の1程度しか請求できなかったりする場合があります。
さらに、従業員への損害賠償請求には支払い能力に限界がありますし、失われた信頼そのものを回復させる効果はありません。
身元保証人への請求についても、身元保証法5条には、被用者の監督に関する使用者の過失の有無、被用者の任務または身上の変化など一切の事情を斟酌するという制限があります。
改正民法令和2年4月施行後に結んだものについては、極度額の設定が必要であり、極度額の範囲に限定されます。

逆に会社が責任を負わなければならない場合はありますか?

従業員の行為により第三者の名誉や信用を損ねる場合、会社が使用者責任を問われる可能性があります。従業員に求償する場合でも、従業員に対する損害賠償請求と同様の理由から求償の範囲が制限される可能性があります。

会社としてはどうすればよいのでしょうか?

会社に損害が発生したり、会社が損害賠償義務を負ったりする危険性を避けるためにも、予防が大切となります。
入社時の誓約書、規定の作成、研修・教育、情報管理体制の構築が不可欠です。
企業の公式アカウントを運用する場合は、運用指針の策定や不適切投稿・誤投稿防止の仕組みづくりも大切となります。
もちろん、企業にも従業員にも非のない誹謗中傷、業務妨害には毅然と対応する必要があります。