岐阜県多治見市で鉄道貨物輸送を担う多治見通運株式会社。
物流シェアの一割に満たない鉄道貨物輸送でどのように生き残っているのか。メインストリームじゃないからこその「ニーズ」は確実に存在する。
その戦略について多治見通運株式会社取締代表役の関谷社長に伺った。
明治10年頃、初代が名古屋で牛車引いたのが、会社の起源。明治33年(1900年)の中央線(名古屋-多治見間)開通以来、多治見で鉄道貨物輸送に携わっている。今では、再び名古屋でも鉄道貨物輸送を展開する。
タイルや野菜、鉄道コンテナで運ばれている身近な商材
JR中央本線の多治見駅は、多くのコンテナが並ぶ貨物駅が併設されている。多治見の地で鉄道貨物輸送を担うのが多治見通運だ。まず、鉄道貨物輸送のメリットを聞いた。
「鉄道貨物輸送が物流の主役だったのは、高速道路が整備されていなかった時代。
今ではトラックが中心ですが鉄道貨物輸送が残るのは、長距離輸送は鉄道コンテナで運ぶメリットが大きいためです。大量の荷物を一度に運ぶことができ、長距離になればなるほど効率が良いのでコスト削減につながります」
近年の国内貨物輸送量における各輸送機関のシェア(輸送重量)では、鉄道は約1%に過ぎないが、600km以上の長距離はトラック輸送よりコストが削減できる。
ニーズは様々だが重い物を運ぶのに適しているため、多治見で製造するタイルも各地に運んでいる。また、多治見に到着するコンテナは野菜が多く、メインは北海道から輸送されている。
届いた野菜は、愛知県豊山町の北部市場へ運び、東海地方のさまざまな店舗や業者に向けて出荷されている。鉄道貨物輸送は認知度が低いが、実は身近な物が鉄道コンテナで運ばれているのだ。
中には、油圧ショベルの先端部分のバケットだけを載せて運ぶことも。積載効率の悪い荷物や段ボールに入らずむき出しのままの商品、他の荷物に傷つけるような物など、トラックの運送会社から嫌煙される輸送に対する問い合わせも多い。
鉄道コンテナ輸送に破損が少ない理由
春先は繁忙期で仕事を依頼できる運送会社が激減し、価格が高騰する。しかし鉄道コンテナ輸送は料金が時期で変動しない。
こうしたら理由から引っ越し業者の利用も多い。拠点間輸送は鉄道、拠点からお客様の所に運ぶ「ラストワンマイル」はトラックが担うハイブリッドな輸送方法が採用されている。
そして、鉄道コンテナ輸送は「破損が少ない」という一見すると意外なメリットがある。この背景にはトラック輸送の実情と課題がある。
「トラック輸送は、大型トラックを満載にして走るか、何社かの荷物を詰め合わせて走る方法があります。後者は宅配業者のように集荷用トラックでセンターへ持ち込み、東京〇〇方面と細かく仕分けるため、荷物を何回も移動させ、トラックから別のトラックへ載せ替えます。そこで破損のリスクが非常に高まるわけです。鉄道コンテナ輸送は荷物を載せ替える回数が極めて少ないので破損が少なくなります」
ドライバーの人手不足も大きな問題になっているなど、多くの課題を抱える運送業界の中で、多治見通運が掲げているのは「断らない通運を目指す」という考えだ。
「我々はお客様の問い合わせに対し、“できない”と即答しないと決めています。手が届かない内容であったとしても、何とか知恵を絞ってお客様に提案するのが“断らない”という言葉につながっています」
輸送距離を勘案した輸送量 で見ると、鉄道貨物輸送は約5%のシェアを維持し、長距離になるほどシェアが高くなる。しかし、全体で見ればニッチな業態。勝算はあるのだろうか。
「鉄道貨物輸送が国内の二割を目指すのは難しい。しかし、今後は人手不足や運賃高で、トラックが見つからないという事態が起こりえます。その場合は鉄道貨物輸送で分散する選択肢があれば安定供給の手助けができます」
トラックほどの柔軟性はなく、鉄道ダイヤや自然災害の影響を受けるデメリットもあるが、それを含めてもメリットの大きい業種や荷物は存在すると関谷社長は話す。
温暖化防止・SDGsなど環境面の動きが追い風に
多治見通運は鉄道ダイヤや拠点間の輸送方法など踏まえ、お客様のニーズをくみ取りながら輸送をコーディネートしている。ただ運ぶだけでなくコストを下げながら、より正確・安全に、お客様に適した輸送方法を提案し続けている。
「確かにトラック輸送の会社よりは調整が必要です。ただそういったことを今まで当たり前に続けてきたので、倉庫業という別業態でもお客様に対して様々な提案ができ、より良い形でサービス提供できるようになったのかもしれませんね」
最後に、関谷社長に今後の展望を伺った。
「物流業界では鉄道貨物輸送は極端に言えば、“取り残された事業”かもしれません。しかし、人手不足、脱炭素など新しい価値が生まれています。コンプライアンスや環境などの側面では世の中の動きが追い風になっており、それらを切り口にして新たな価値を提案するのが我々の営業戦略です。事業ポートフォリオはニッチなところを狙い、競合が多くない分野にポジションを置くという考え方です」
実際に、ヨーロッパはEVに舵を切り、日本もCO₂削減により意識が向くことは間違いない。環境課題を通じて鉄道貨物輸送のメリットが見直されているが、潜在的な鉄道貨物輸送のニーズはまだまだ存在しているだろう。
【取材先】
多治見通運株式会社
[所在地]岐阜県多治見市小泉町1-21-1
[TEL]0572-20-2500
[創業]1949年10月
[URL]https://www.tajimituuun.co.jp/index.html
(取材・文:笹田理恵 / 編集:OHACO編集部)
編集者・ライター
ビジネスメディア『OHACO』の特集企画・取材を担当。アパレルデザイナーという異業種からライター・編集者に転身。得意なジャンルは、企業取材、環境活動・SDGs、ファッション産業など