無断残業をする従業員や精神的に不調な従業員に残業をやめさせる対処法とは

藤田弁護士の法律相談所【 連載 第5回 】

放置していると未払い残業代を請求される恐れあり

多くの企業の就業規則では、時間外労働(残業)は許可制となっています。残業の指示や許可をしていないのに、勝手に職場に残って仕事をしていたとしても、本来であれば時間外労働とはならないはずです。

ところが、明示の指示や許可がなくとも、無断で残業をしている状態を放置していると、黙示の残業指示や許可があったとして、時間外労働だと認められてしまう場合があります。この場合、未払い残業代を請求されるリスクがあります。

残業代請求の時効は、令和2年4月から、従来の2年から3年に延長されています。今後は、労働審判や訴訟では、今までよりも高額の残業代の支払いを命じられてしまう可能性があるので注意が必要です。

どのような対策を講じるべきでしょうか?

無断残業の動機が単なる残業代稼ぎにあるのか、それとも別の理由があるのかを見極めるべきです。

残業代稼ぎのための無断残業を防ぐには、無断で残業できない体制を構築し、労働時間の管理をしっかり行う必要があります。無断で残業できないよう、職場の一斉消灯やパソコンの電源を一斉に切る、ログインできないようにするといった方法があります。

労働時間の管理は会社の義務です。平成30年の労働安全衛生法の改正により、長時間労働者に対する医師による面接指導が義務付けられました。実効性確保のため、会社は従業員の労働時間の状況を把握し、その方法も客観的な方法でなければならないとされています。

とはいえ、仕事を無断で自宅に持ち帰り、いわゆる「持ち帰り残業」が常態化するとなれば本末転倒です。人手不足や仕事量の配分に問題がある場合は、人員の補充や仕事量の配分を調整するといった対応が必要になります。

精神的に不調なのに残業をやめない従業員への対応は?

会社は、従業員に対する安全配慮義務があり、従業員のメンタルヘルスへの配慮も含まれます。

精神的に不調の疑いのある従業員に対して、面接指導や専門医への受診を勧奨すべきです。平成30年の労働安全衛生法の改正により、時間外労働が80時間を超え、疲労の蓄積も認められる労働者への医師による面接指導が義務付けられています。

たとえ受診を拒否したとしても、就業規則で専門医への受診義務を定めている場合、就業規則の内容が不合理でない限り専門医への受診を命ずることができます。就業規則にそのような定めがなくとも、信義則や公平の観念に照らし、合理的かつ相当な理由があるとして受診指示が許される場合もあります。

また、メンタルヘルスに不調があると判断された場合、その判断の内容によっては、就業制限や休業の措置を講じなければなりません。

長時間労働が恒常的で、上司の助言・指導に全く従わない場合、単に残業をしないよう指導・助言するだけではもはや不十分で、これ以上の残業を禁止する旨を明示した強い指導・助言を行うべきであるとされています。

過去の裁判においては、それでも応じないときは、最終的には、業務命令として、一定の時間が経過した以降は帰宅すべき旨を命令するなどの方法を選択することも念頭に置いて、原告が長時間労働をすることを防止する必要があるとして、それをしなかった場合は従業員に対する安全配慮義務に違反すると判断されたこともあります(平成20年5月26日大阪地裁判決)。