ひらく、まぜる、生まれる 次の100年を育てる インキュベーション施設

名古屋駅から徒歩8分。
円頓寺商店街に程近い那古野地区に、廃校をリノベーションして生まれたインキュベーションが誕生しました。
スタートアップはもちろんのこと、東海圏の大企業も入居しており、企業×企業、企業×起業家・学生など「つながり」に対するニーズの高まりを感じさせます。

インキュベーション施設が生まれた経緯や活用方法、そして入居者のつながりをきっかけに生まれた新しいビジネスについて、同施設の管理会社・東和不動産株式会社の飯澤千紘さんに話を伺いました。 

旧・那古野小学校校舎をリノベーションして生まれたインキュベーション。
起業家やベンチャーの育成拠点として2019年10月に開設。
コワーキングスペースやシェアオフィスなどのワークスペースと、会議室・体育館などのレンタルスペースも併設され、次の100年を担うひと・こと・ものが育っていくことをコンセプトに掲げている。

音楽室だったなごりのある会議室

— 起業家の育成や新しいビジネスを支援するインキュベーションが誕生した経緯を教えてください。

廃校になった旧那古野小学校を利活用するコンペを名古屋市が開催したのがきっかけです。
広域的な交流、産業・知的資産を生かした創造、地域力の発展を目的とされており、弊社の企画提案が採用されました。

当時は、名古屋駅界隈のオフィスに空きがないほど市況が良かったこともあり、新しい事業を始めて、大口テナントを自分たちで育てていこうと我々は考えていました。
また、弊社はトヨタグループの企業ですので、グループ内の企業がスタートアップへの投資や協業をしている中、いかにグループに貢献できるかも視野に入れていました。

—名古屋駅のミッドランドスクエアをはじめ、不動産の所有管理をしている東和不動産としてインキュベーションは新たな挑戦ですか。

リノベーションやインキュベーションが初めての試みで、なごのキャンパスが新規事業の一歩目でした。
ここを成功事例として、東京のお茶の水にトヨタ自動車の社員寮をリノベーションしたインキュベーション「axle御茶ノ水」をオープン。
22年秋に富士スピードウェイの隣接地にホテルも開業予定です。
オフィスや商業以外の分野にも進出して、新しい事業を展開するきっかけにつながりました。

間近にある名古屋駅の高層ビル群

—なごのキャンパスは、複数の企業と連携して運営されています。

土地と建物は名古屋市所有で、事業主体である東和不動産が2019年4月から最大15年間で運営を予定しています。
コミュニティマネージャーは株式会社LEO、デザイン・ブランディングは株式会社R-pro、産学連携支援のTongaliプロジェクトなど、複数の企業と共同で運営をしています。

—名古屋商工会議所が入っているのも、インキュベーションとしてはありがたいですね。

平日は基本的に常駐してくださっていて、創業や補助金の相談などができるような仕組みを作っています。

—では、なごのキャンパスのコンセプトを教えてください。

コンセプトは「ひらく まぜる 生まれる 次の100年を育てる学校」です。
スタートアップに限らず、大企業、個人事業主などみんなに門戸を開く施設です。
オフィスの機能以外にもイベントなど人や企業を混ぜる仕掛けをして、次の100年を担っていく新しい産業や人材を育てていくことも狙いとしています。
次の100年をつくっていくためのコンセプトを設計しました。

ちなみに、ロゴマークは旧那古野小学校の校章です。地元の方にも愛された学校だったので、そのまま使わせていただいております。

ロゴマークは、旧那古野小学校章のまま

—学校をリノベーションする際、工夫したことはありますか。 

リノベーション前は、最後の卒業生が黒板に書かれたメッセージなどそのまま残されていました。
全て外して保存してあり、そこには新しい黒板を付けて使ってもらっています。
コワーキングスペースで使用している家具は、体育館の得点板を活用した照明やとび箱の机など廃材を利用して作られています。

—施設内のワークスペースについて教えてください

メインのコワーキングスペース「HOME ROOM」は、ワークスタイルや気分で自由に席を選べるフリーアドレスゾーンです。
コワーキングスペースだけ使える会員は70人ほど。
2階、3階のオフィスに入居されている方もこのスペースで仕事されていて、打合せや商談、会員同士の交流の場になっています。
このスペースは、元々職員室だった場所なんです。

—コワーキングスペースにはキッチンもありますね。

コーヒーが無料で飲めるオープンキッチンでも会員の交流が生まれています。
IHのコンロもあるため、テナント企業同士で仲良くなることが多く、それぞれに食材を持ち寄り、お昼ごはんを作って、お皿を並べて食べよう!というつながりも生まれています。
コミュニティのコアになっていますね。

人と人とがつながるオープンキッチン

固定席を使用するシェアオフィスのニーズはいかがでしょうか。

3階のシェアオフィスは固定席です。こちらに入居されている方は、24時間施設を使用でき、会社登記も可能です。
こちら40席ありますが、ほぼ満席になっています。

—小学校の教室を生かした個室のオフィスもユニークです。

個室は27室ありますが、全て満室になっています。
個室に入居すると名古屋市の要件を満たせば家賃補助も受けられることも人気の要因のひとつです。

入居企業の業種もさまざまです。
豊田通商株式会社、タキヒョー株式会社など、スタートアップに投資や協業されている企業も入居いただいています。
そして、名古屋の会社だけでなく、東京のスタートアップ企業も入居されています。


—一般の方に開放されている場所はありますか?

1階のコワーキングスペースは、ドロップイン(1日利用)の利用も可能です。
イベントスペースとしても開放しており、平日の17時以降と土日は貸し切りもできます。
スクリーンやプロジェクターがあり、貸し切りのニーズも高いです。
体育館や会議室も利用可能で、体育館ではドローン教室も開催しています。
そして、カフェ「yoake」も併設。モーニングやランチを地元の方にも楽しんでいただいております。

元給食室はカフェ「yoake」に

人と人のつながりから
新たなビジネスの
創出へ

―入居される方は、何を目的とされていることが多いのでしょうか?

やはり場所とコミュニティです。
人と人のつながりを求めて来られる方が多いかと思います。
つながりが生まれるきっかけでユニークなのは、部活ですね。

―部活も仕掛けられたんですか?

実は、運営側で作った部活はほとんどありません。
テナントの皆さんが全て自分たちで作って、バスケ部、バレー部、登山やカレー部など、Slack上でやり取りして活動しています。
やはり皆さんコミュニティを求めて入居されているので、こういった活動も意欲的に参加される方が多いです。

部活動でも利用される体育館

―活動を通じて、ビジネスの情報交換も生まれそうです。

Slackには、部活だけでなくいろいろなチャンネルがあります。
400人を超える会員が参加している「#みんなの情報交換所」ではさまざまな情報が共有され、イベント情報や事業紹介が行われています。

―すごく楽しそうですね! 施設のムードが自然と育っていっている印象を受けます。

入居者さんに恵まれていますね。
我々にとっては新しい事業なので、入居者さんに勉強させてもらうことは多いです。

―逆に、運営する側として苦労される点はありますか?

テナントの数がトータルで約160社になるため情報を伝えることは大変です。
普通の賃貸オフィスでは、たとえば100坪に1社入居したら完了する場合は多いですが、ここは場を分割して、いろいろな企業にお貸しして、入居後のコミュニケーションを取ることが大切です。

―横のつながりが生まれやすい働き掛けをされていますが、入居企業同士で新しいビジネスが生まれることもありますか?

シェアオフィスは一つの部屋にいろいろな企業が入居しているので横のつながりが多く生まれています
21年4月に民泊施設の企画・管理・運営されている株式会社ミライブと内装デザイン・設計をされている株式会社matomatoがコラボして、7組の建築家がひと部屋ずつデザインを手掛ける宿泊施設「7 Stories」をオープンされました。
有松絞りの部屋など地場産業を生かしたコンセプトの部屋を作っているユニークな施設です。

出典:SEVEN STORIES

―大手法人企業もコワーキングスペースを利用するための法人プログラム会員となっていますが、入居者と法人の関わりも生まれているのでしょうか。

入居しているスタートアップ企業や起業家、学生と交流したいけれどオフィスは不要な企業さんは、イベントの参加やコワーキングの無記名会員の特典が付いたプログラムを用意しております。
コワーキングスペースを通じて入居者と顔見知りになり、ビジネスの話に発展していることも。

各種イベントの名刺交換会や新しい入居者の紹介イベントも開催しており、そこでプレゼンテーションを行う取り組みもありますよ。

法人プログラム会員の企業

―最後に、OHACO読者の中小企業に向けてメッセージをお願いします。

なごのキャンパスは、さまざまな技術やアイディアを持つ人が集うインキュベーション施設です。
スタートアップ企業と協業をお考えの方、新規事業を起こしたい方、ぜひ一度施設のイベントご参加やお問合せをお待ちしております。

なごのキャンパスで新時代への課題にチャレンジする企業(一部抜粋)

スタジオアンビルト株式会社
「デザインで、生活に煌めきを。」をミッションに、スマホ一つで建築家に間取りを依頼できるWebサービスmadree(マドリー)を運営

株式会社一旗
プロジェクションマッピング、VR/AR、プロモーションビデオなどのデジタルコンテンツなどを提供するデジタルコミュニケーションカンパニー

KUROFUNE株式会社
外国人の就労支援や外国人が働きやすい・住みやすい日本社会を実現するための生活支援事業

ファイン・バイオメディカル有限会社
血管内カテーテル手術を徹底再現。次世代手術シミュレータ「EVE」の開発・販売

ピノベーション株式会社
中小製造業のためのIoTソリューションの開発。製造業の不良品検知に特化したAIカメラ「チェキット」の開発販売

株式会社ファースト・オートメーション
産業用ロボット導入プラットフォーム開発。工場や倉庫の現場で、ロボットを中心としたファクトリーオートメーション設備導入を促進

なごのキャンパスで生まれる
新たなビジネスの一例

スターキャット・ケーブルネットワーク株式会社

なごのキャンパス
先端無線実証プロジェクト

なごのキャンパス内に先端無線施設(ローカル5G、Wi-Fiなど)を2022年6月頃の提供開始を目標とし、順次設備を構築。なごのキャンパスの法人プログラム会員、入居者と連携し、構築した先端無線技術を活用した新たな産業の創出を目指す。

なごのキャンパスで開催される
企業主催イベント

日本生命保険相互会社

NISSAY
ビジネスマッチングイベント

日本生命保険相互会社の取引企業(全国約25万企業)となごのキャンパスのスタートアップのニーズをマッチングさせる取り組み。全国展開企業と東海圏内の企業とのビジネス機会の創出を通じ、地域経済活性化につなげることを目的としている。

創立100年を超える小学校だった場所で、
次の100年をつくっていく

【今回の取材先】
[所在地]名古屋市西区那古野2丁目14-1
[運営者]なごのキャンパス運営事務局
[事業者]東和不動産株式会社、株式会社LEO、株式会社R-pro、Tongaliプロジェクト、名古屋商工会議所
[URL]  https://nagono-campus.jp/
[問い合わせ先]info@nagono-campus.jp