従業員がパワハラ被害を 訴え出ました。

藤田弁護士の法律相談所【 連載 第7回 】

管理職から「お前みたいな腐ったミカンがいると、他のミカンまで腐ってしまう、だから、ちゃんとやれ!」と言われたと話しています。

中小企業もパワハラ防止のための措置を講じる必要がある

労働施策総合推進法が2019(令和元)年に改正され、企業にパワハラ防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられました。
大企業ではすでに2020(令和2)年6月1日から施行されていますが、中小企業に対しても、いよいよ2022(令和4)年4月1日から施行が予定されています。

具体的には、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じる必要があります。
相談窓口の設置や就業規則の整備・改訂(パワハラの禁止と、パワハラは懲戒事由に当たることを明記する)がこれに当たります。

労働者がパワハラの相談を行ったことや、パワハラの相談への対応に協力した際に、事実を述べたことを理由として、企業が解雇その他の不利益な取り扱いを行うことも禁止されます。

「腐ったミカン」発言はパワハラに当たるのか

法律上、「パワーハラスメント」とは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることであると定義されています(労働施策総合推進法30条の2第1項)。

パワハラの例として、一般に次の5つのタイプが挙げられます。

  1. 身体的な攻撃:暴行・傷害
  2. 精神的な攻撃:脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
  3. 人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視
  4. 過小な要求:業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
  5. 個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること

過去には、裁判所が「腐ったミカン」という言葉は人間性を否定するような暴言であると判断したことがあります。
2015(平成27)年11月11日福岡地裁判決では、一方が他方に対し「たった1人の腐ったミカンがあったら全部が腐ってしまうんだよ、意識を高めてくれよ」などと述べたとしており、「腐ったミカン」といった発言については、相手の人間性を否定するような暴言を浴びせるものだと判断されています。

この福岡地裁の判断に照らすと、「腐ったミカン」はひどい暴言であり、パワハラの5つの類型のうち、②の精神的な攻撃に当たりそうです。
管理職からそのような発言があったとなると、上司と部下の関係で出された発言で、業務上必要かつ相当な範囲内の言動とも言えません。
「腐ったミカン」発言は、パワハラに該当すると言えるでしょう。

パワハラについては、加害者本人が被害者から損害賠償請求をされるだけでなく、会社も使用者責任を問われる可能性があります。
また、会社は、従業員に対する安全配慮義務の一環として、職場内の人権侵害を生じないように配慮する義務を負っています。そのため、安全配慮違反を理由に損害賠償を請求されるリスクもあります。

経営者としては、改めて、パワハラに関する周知徹底や研修の実施など、パワハラ対策が十分整備されているかどうか見直す必要がありそうです。

就業規則に従いパワハラをした管理職を懲戒解雇してもよいか

懲戒処分をする場合は、行為の性質、態様などに照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるものでなければなりません。
重すぎる処分をしてしまうと、逆に、パワハラ加害者から、懲戒処分の違法性を主張され、新たな紛争が生じることになります。

パワハラの有無をどのように確認・調査するのか、問題となる言動がパワハラに当たるかどうか、パワハラがあった場合にどのような処分をするかについては、労働問題に詳しい弁護士による専門的な判断が必要です。