小売業を中心に注目を集め、広がりを見せている「オムニチャネル」。
「言葉は聞いたことがあるけどよく知らない」「言葉を聞いたことすらない」という人でも、オムニチャネルの施策は身近に存在していて、普段の生活の中で目にしたり、利用したりしている可能性があります。
今回は、オムニチャネルの意味や戦略、メリット・デメリット、成功事例などについて詳しく解説します。
1.オムニチャネルとは
意味
オムニ(Omni)はラテン語で「すべて」という意味です。チャネル(Channel)は英語で「経路」、マーケティングにおいては「集客するための媒体」という意味があります。
これらのことから、オムニチャネルはオンライン・オフラインを問わず顧客と企業の接点が統合された状態で、顧客に購入する経路を意識させない販売戦略と言われています。
販売戦略
販売戦略についてもう少し詳しく説明します。
欲しい物があってお店に行ったけれど、在庫切れで買えなかった…という経験がある人は多いと思います。
そんな時にそのお店のECサイトで商品を購入できたり、あらかじめECサイトで注文しておいてお店で受け取れたりできれば便利ですよね。
このように、顧客が欲しい物を時間や場所を選ばずに購入し受け取れるようにするのがオムニチャネル戦略です。
チャネルとして考えられるのは、実店舗やECサイトだけではありません。
顧客に向けて配信するメールマガジンやTwitterやInstagramのSNS、スマートフォンアプリ、新聞や雑誌の広告、カタログなど多岐にわたります。
オムニチャネルでは、オンライン・オフラインに関係なく、それぞれのチャネルの特性を生かして顧客の来店や購買を促進し、統合的に管理して一貫性のあるサービスを提供します。
2.注目されている背景
消費者行動の変化
かつてはお店に行って商品を見て買うのが当たり前でしたが、インターネットやスマートフォンの普及によって、その行動は変化していきます。
現在では、実際にお店で商品を見てもその場では買わず、インターネットで商品について調べたり、口コミを見たりしてから購入するケースが増えています。
このように、顧客は商品を購入するのに複数のチャネルに触れるようになりました。
その変化に対応するため、顧客が購入したいと思った時に購入できる販売戦略としてオムニチャネルが求められるようになったのです。
テクノロジーの進化
テクノロジーの進化により、顧客の行動をより正確に把握できるようになりました。
それぞれのチャネルでの購買データをチャネル間で共有できれば、顧客に対してより最適な情報を届けることができます。
現代のマーケティングでは、情報のパーソナライズ化がとても重要です。
さまざまなチャネルから情報を収集し統合するオムニチャネルの価値は、とても大きいと言えます。
3.オムニチャネルのメリット
顧客満足度の向上
先述したように、オムニチャネルはECサイトで注文した商品をお店で受け取ることも可能です。
このようにオンラインとオフラインを切れ目なくつなぎ、新しい顧客体験を提供することで顧客の満足度は向上します。
満足度が向上すれば、企業や商品の印象がよくなり、リピーターにつながりやすくなります。
詳細な顧客分析が可能
複数のさまざまなチャネルから顧客の行動データを収集することことにより、商品の購買層を深く知ることができます。
また、収集したデータを分析し、個々の顧客に商品のレコメンドや購入頻度に合わせた対策を行うことが可能となります。
機会損失の減少
商品を購入しようと来店したのに在庫切れで買えないとなると、顧客は購入するのをやめたり、他店で購入したりするなど、販売機会を失ってしまいます。
オムニチャネルでは、さまざまな販売チャネルを連携させて統合し、適切に在庫管理ができるため、販売機会の損失を防ぐことができます。
4.オムニチャネルのデメリット
カニバリゼーションの発生
カニバリゼーション(Cannibalization)は、直訳すると「共食い」という意味です。
オムニチャネルのケースでは、実店舗とECサイトによる競合を指します。
実店舗とECサイトを切れ目なく連携させたことにより、実店舗の顧客がECサイトに流れてしまい、実店舗がショールーム化してしまうことがあります。
そうなっては、売上だけでなく、実店舗のスタッフのモチベーションが下がりかねません。
そのため、実店舗とECサイトの役割を明確にするなど、チャネルの特性に応じた施策を行うことが必要です。
初期費用が必要
販売窓口が1つしかないシングルチャネルの場合は、チャネルを増やすための資金が必要です。
また、もともと複数のチャネルを持っていたとしても、それらを連携し管理するシステムの導入コストや、それを管理するための人件費がかかります。
そのため、これらのコストを回収できる見込みがあるか、十分に検討する必要があります。
効果が現れるまでに時間が必要
オムニチャネルは、顧客満足度を高め、企業や商品の印象をよくすることで効果を発揮しますので、即効性があるとは言えません。
そのため効果が現れるまで、資金的に問題はないか検討する必要があるでしょう。
5.オムニチャネルを成功させるポイント
オムニチャネルは、効果が現れるまでに時間がかかるだけでなく、必ず効果が出るというわけではありません。
成功させるためには、次のようなポイントを押さえておきましょう。
ロードマップの策定
オムニチャネルに限らず、新しいビジネスに取り組む場合はゴールを明確にすることが大切です。
オムニチャネルによって何を成し遂げたいか、そのためにどのような施策が必要で、それをいつまでに行うかを決めましょう。
カスタマージャーニーの作成
顧客が商品を知って興味を持ち、購入意欲を高めて購入に至るまでの過程をカスタマージャーニーと言います。
このような顧客の行動を可視化することで、より顧客の行動を理解することができます。
全社的な意識統一
オムニチャネルは、チャネル同士が協力して全体の売上を伸ばすための施策です。
そのため、全社的に意識を統一して、共通認識の下で取り組みをスタートさせることが大切です。
チャネル間のデータの統合
オムニチャネルは、さまざまなチャネルのデータを統合させることが肝要です。
実店舗とECサイトの売上、顧客の過去の購買履歴、各各店舗の在庫など、あらゆる情報を統合して管理します。
この際、それぞれのデータを管理しているシステムも統合することになるため、場合によってはシステム自体を変更しなければなりません。
効果検証
データやシステムの統合後、想定どおりに稼働しているかについて検証します。
具体的には、作成したカスタマージャーニーと比較して、想定外の動きが認められた場合は、軌道修正を行います。
6.オムニチャネルの成功事例
無印良品
無印良品では、スマートフォンアプリ「MUJI passport」を運営しています。
アプリから商品を購入できる一方、店舗で貯めることができるマイレージ型のポイントプログラムや、位置情報を用いたチェックイン機能を備えており、来店を促す施策が多いことが特徴です。
ABC-Mart
ABC-Martでは、ECサイトで商品を選び店舗で試着・購入するオムニチャネル施策「店舗受け取りサービス」を行っています。
また、同一圏内に複数の店舗を出店し、在庫切れに対応できるようにしています。
ユニクロ
ユニクロでは、ECサイトで購入した商品を送料無料にて店舗で受け取れるというサービスを行っています。これにより、顧客の利便性を高めるだけでなく、店舗を訪れたついでに買い物をすることを促しています。
ニトリ
ニトリでは、公式アプリを運営しており、店舗に陳列された商品に付いているQRコードを読み込み、アプリ上で注文して自宅に届けるというサービスを行っています。
また、雑誌などに掲載されているインテリアの写真から似た商品を探せる、写真検索機能を備えています。
7.まとめ
成功事例で紹介したように、オムニチャネルの導入は大企業にとどまっているのが現状です。
しかし、今後はマーケティングのトレンドとなり、注目度はますます上がることが予想されます。
編集者・ライター
フリーの編集者。書籍や情報誌などのデザインを携わる。主に看護・介護業界の情報誌の編集に携わり、グルメ・カルチャー・スポーツのジャンルの編集の経験あり。