藤田弁護士の法律相談所【連載 第12回】
退職金規程に支払先について定めがある場合、退職金規定に定められた人が退職金を受け取ることとなり、相続財産にはなりません。多くの場合、退職金の受給権者を、労働者が業務災害により死亡した場合の遺族補償に関する労働基準法施行規則42条から45条の通りとし、配偶者、子、父母、孫、祖父母の順とすることが多いでしょう。
もっとも、そのような支払先の定めがない場合は、相続財産となります。
未払い賃金は?
給与日前に死亡した場合、その月の給与請求権は相続財産となります。
相続財産となる場合、どのように対応すべきでしょうか?
給与請求権は金銭債権であり可分債権(分けることのできる債権)です。最高裁の判例により、預貯金以外の金銭債権等の可分債権については、遺産分割を経ずに、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継します( 昭和29年4月8日最高裁判決ほか。なお、預貯金については遺産分割の対象となります)
もっとも、共同相続人全員が遺産分割の対象とするという合意をしている場合は、遺産分割の対象となります。使用者は、労働者の死亡の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に未払賃金を支払わなければなりません。(労働基準法23条1項)
相続人だと申し出る者がいれば、戸籍を提出してもらうなどして相続人であること及びその人の相続分を確認し、さらに、相続人間で給与請求権を遺産分割の対象とするような合意が成立していないかどうか確認することが望ましいです。
その上で、給与請求権について法定相続分に応じた割合を(その人の相続分が1/4なら未払賃金の1/4というように)支払うこととなります。もし、相続人間で給与請求権を遺産分割の対象とするような合意が成立している場合には、遺産分割により給与請求権を取得することとなった者に支払うこととなります。
退職金についても、退職金規程に支払先の規定がなく相続財産となる場合には、法定相続分に応じた割合を支払うこととなります。
判断に迷う場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
配偶者と事実上の離婚状態だった場合には?
多くの退職金規定では、第1順位の退職金受給権者を配偶者としています。
ところが、配偶者と事実上の離婚状態だった場合に、この配偶者に退職金を支給してよいのでしょうか。
最高裁は、中退共の退職金について、婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらないものというべきである、としています(令和3年3月25日最高裁判決)。
退職金についても同様に考える必要がありそうです。
配偶者と事実上の離婚状態だったとして第1順位の受給権者と第2順位以下の受給権者とで受給権をめぐって争いが起きている場合や、事実上の離婚状態であったかどうかについて判断に迷う場合は、法務局に供託をすることを検討しなくてはなりません。
まずは弁護士に相談することをおすすめします。
従業員が独身で子どもがおらず、父母も亡くなっている場合はどうでしょう?
退職金規程に支払先について、配偶者、子、父母、孫、祖父母の順との定めがあり、該当者がいずれもいない場合、受給権者が存在しませんから、退職金の支払義務がありませんので対応する必要がありません。
退職金規程に支払先の定めがなく相続財産となる場合は、誰に支払うべきか分からないとして、債権者不確知として法務局に供託をすることが考えられます。相続人が不明で、相続財産管理人がない場合は、供託ができると考えられます。
なお、家庭裁判所で相続財産管理人が選任された場合は、相続財産管理人に退職金や未払賃金を支払うこととなります。会社が自ら相続財産管理人の選任を申し立てることは費用面や手間を考えると実際的ではありません。
多治見さかえ法律事務所 弁護士
慶應義塾大学経済学部卒業。近くで気軽に相談できる弁護士をモットーに、取引や労務に関する紛争の解決・予防に地域密着で対応中。
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