藤田弁護士の法律相談所【連載 第11回】
まずは、組戻しを試みます
最近、とある町役場の職員が463世帯分に相当する新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金4630万円を誤って1世帯の住民に振り込んでしまったとの報道があり、誤振込みの問題がクローズアップされました。
誤振込の場合は、まず、組戻し手続ができないか検討します。
組戻しとは、振込手続が完了し受取人口座に入金されてしまった場合に、振込んでしまったお金の返却を依頼する手続のことです。
もっとも、相手の同意が必要です。
相手が返金に応じてくれない場合は?
では、相手が返金に応じてくれない場合はどうすれば良いのでしょうか。
振り込んでしまったお金が相手の口座から引き出されるのを阻止することと、振り込んでしまったお金の返還を求めることの2つが必要です。
1つ目については振込先の口座に対する仮差押えをし、2つ目については、民事上は、不当利得返還請求をすることとなります。
不当利得返還請求とは、法律の原因なく利得を得ているとしてお金の返還を求めるものです。
仮差押えをしない限り、誤まって振り込まれたお金を相手が引き出せてしまうのが原則です。
振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、両者の間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立するとされているからです(最高裁平成8年4月26日判決)。
誤振込の場合に受取人が払戻しを求めることは権利濫用ではないかとの批判がありますが、最高裁は、単に、受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負担しているというだけでは、権利濫用に当たらないとしています(最高裁平成20年10月10日判決)。
なお、刑事上は、窓口で払い戻しを受ける場合は詐欺、人を介さずATMで引き出す場合は窃盗罪が成立するとされており、刑事告訴・告発をする余地はあります。
また、他の口座に移動させた場合は電子計算機使用詐欺罪が成立するとの見解があります。
最高裁は、誤振込みと知りながら窓口で払い戻しを受けたケースについて、振込依頼人のミスにより誤振込が生じた場合、誤振込であることを知った受取人がその情を秘して預金の払戻しを請求することは、詐欺罪の「欺く行為」に当たり、誤振込でないと誤信した銀行の窓口係員から預金の払い戻しを受けることについて詐欺罪が成立する判断しています(平成15年3月12日最高裁決定)。
誤振込みをしないよう気をつけましょう
訴訟を提起する場合には相手の情報が必要になりますが、通常、把握できているのは口座番号と名義程度です。弁護士会照会を行って口座の名義人の漢字氏名や住所などを確認し、訴訟を提起することになります。
このように、誤って振り込んだ場合の対応は面倒ですし、手間も費用もかかります。
振込時に、振込先と金額を間違えないことが大切です。
多治見さかえ法律事務所 弁護士
慶應義塾大学経済学部卒業。近くで気軽に相談できる弁護士をモットーに、取引や労務に関する紛争の解決・予防に地域密着で対応中。
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