データ・ファブリックとは?
分散する情報を統合して有効活用

業務で使用するファイルの保存・管理には、社内にあるファイルサーバかクラウドが用いられていると思います。
昨今、データにはさまざまなフォーマットがあること、クラウドによる管理ではデータが分散することから、データの利用や管理が複雑になっています。
そこで注目されているのが、「データ・ファブリック」という考え方です。

今回は、分散する情報を統合して有効活用するデータ・ファブリックについて詳しく解説します。

1.データ・ファブリックとは

「データ・ファブリック」とは、オンプレミス(社内で管理しているサーバやシステム)やクラウドのあちこちに分散しているデータを適切な場所に配置し、サービスやアプリケーションから使いたいデータをいつでも取り出せる基本設計や技術のことを指します。

データ・ファブリックを実現させるためには、サーバやネットワーク、それらの上で動作するサービスやテクノロジーを組み合わせることが必要です。

データ・ファブリックの実現により、企業が持つデータの活用が促進され、データの価値は最大限に高められます。また、データドリブン(データを収集・分析し、ビジネス上のさまざまな課題に対して判断・意思決定を行うこと)な経営を推進でき、DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速につながります。

2.データ・ファブリックが注目される背景

では、なぜデータ・ファブリックが注目されるようになったのでしょうか。

データの統合管理

企業では、マーケティングを行う上で顧客データや在庫データ、過去の売上データ、購買行動に関連する気候データを扱っています。
これらのデータは量が多いだけでなく、フォーマットの種類も多様であり、部署ごとに同じデータを持っていることも少なくありません。
また、データ量が多いことからクラウドを利用している場合、データは分散し管理が複雑になる上、いざ使おうとした時に保存場所がわからず時間と手間がかかってしまいます。

これらのことから、異なるフォーマットや散らばったデータを統合管理して、効率的にデータを活用するため、データ・ファブリックが求められるようになりました。

統一的な開発環境の調整

開発現場では、技術ごとではなく、アプリごとにチームを組むことがあります。
また、DevOps(デブオプス)やハイブリッドクラウド、マルチクラウドといった環境で開発することも多くなっています。

DevOpsはソフトウェア開発手法の一つで、開発担当者と運用担当者が連携して協力する開発手法です。マルチクラウドは複数のパブリッククラウドサービスを利用すること、ハイブリッドクラウドは1つまたは複数のパブリッククラウドサービスをオンプレミスのプライベートクラウドと組み合わせて使用することです。

製品やサービスを素早く開発して顧客価値を高めるためには、統一的な開発環境を整えることが求められています。

3.データ・ファブリックでできること

データ・ファブリックを実現することで、次のようなことができるようになります。

データの自由な転送・処理・管理・保存

複数のオンプレミスサーバやクラウドの間には互換性がありませんが、データの転送・処理・管理・保存が自由にできるようになります。また、管理者がアクセス権を管理することも可能です。

分散したデータの統合

データの所在や保存方法に関係なく、すべてのデータにアクセスし、データを収集し活用する単一環境を構築することができます。そのため、効率的なデータの利活用につながります。

データソースの管理

オンプレミスやクラウド、ハイブリッドクラウド、マルチクラウドといった複数の環境を、データソースおよびデータの利用者として管理することが可能です。

データへのスムーズなアクセス

データの品質を維持する機能・サービスであるデータクオリティ、データをシステムで読み込み可能な形に整えるデータプレパレーションを組み込むことで、データを自動的に使いやすいように処理して保存できます。

データ取得後の作業がなくなるため、すぐにデータを分析し活用することができます。

拡張性の向上

データ量やオンプレミスサーバ、クラウドの種類が増えても、高速かつ簡単に拡張し、データを移行することが可能です。

4.データ・ファブリックのメリット

データ・ファブリックの実現によるメリットを見ていきましょう。

データドリブンな経営が可能

データを統合し活用しやすくなることで、データの利活用が促進されます。BIツール(企業が持つさまざまなデータを分析・見える化して経営や業務に役立てるツール)などにデータを活用することで、商品開発やマーケティングに生かすことができます。

また、開発現場ではテストデータや本番データに素早く接続でき、開発効率の向上につながります。

セキュリティレベルの向上

ユーザーやクラウドに適切なアクセス制御を行え、データのコピーや移動、共有などの操作に関するポリシーを設定できるため、企業のセキュリティレベルを向上させることができます。

効率的な冗長化

コンピュータやシステムなどに何らかの障害が発生した場合に備えて、予備の設備やサブシステムなどを平時から運用することを「冗長化」と言います。
データ・ファブリックでは、複数のオンプレミスサーバやクラウド間で自由にデータを移行できるため、複数拠点にデータをバックアップでき、効率的に冗長化を図ることができます。

これは、災害が起こった時にデータ損失のリスクを抑えることにつながるため、BCP(事業継続計画)になり得ます。

システム管理者の負担軽減

データ・ファブリックでは、データのバックアップやアクセス権の管理といった多くの作業が自動化され、簡略化されています。
そのため、ユーザー数やリソース、利用するクラウドサービスが増加しても、システム管理者の作業負担が大きく増えることはありません。

新規テクノロジーを容易に導入

日々、IT技術は進化し、新しいテクノロジーが生まれています。しかし、その中から自社に合ったものを選び、すでに導入しているシステムとの連携を検証し、運用に向けて調整するという作業は、システム管理者の大きな負担となります。

データ・ファブリックでは、これらの一連の作業をサービス提供事業者がサポートしているため、新しいテクノロジーを簡単に導入することができます。

5.データ・ファブリックの実現方法

では、データ・ファブリックを実現するには、どのような方法があるでしょうか。
ここでは、ファイルサーバを全面的に置き換える場合で、クラウドを活用した一般的な方法を紹介します。

同じストレージOSで新規導入

同じストレージOS(ストレージ専用のOS)によるオンプレミスストレージとクラウドストレージを新規に導入する方法です。管理しやすく、コスト・セキュリティなどのバランスが良いことから導入するケースが増えています。

ストレージを導入した後は、以前使っていたファイルサーバからデータを移行します。
そして、企業のセキュリティポリシーや従業員の用途に応じてアクセス権を設定し運用します。

すべてクラウドに移行

ファイルサーバのデータをすべてクラウドに移行する方法です。
これは昨今の働き方の多様化やコロナ禍によるリーモートワークの拡大の流れを受け、高セキュリティのクラウドストレージであれば、セキュリティと利便性を両立できることから導入するケースが増えています。

クラウドに移行するには、まずクラウドサービスの販売会社と契約します。
その後、管理者が基本的な設定を行い、以前使っていたファイルサーバからデータを移行します。
そして、企業のセキュリティポリシーや従業員の用途に応じてアクセス権を設定し運用します。

6.まとめ

データ・ファブリックは、データの利活用を促進することで製品やサービスの質を高め、ひいては企業の競争力の向上につながっていきます。また、企業のDXを推進するインフラとしても見逃せないアーキテクチャと言えまるでしょう。