労働環境の改善と人材育成で業界全体の底上げを働きかける
「エステ業界はブラック企業ばかり」。
当時の業界の常識を打ち破るべく、2007年に23歳の若さで一人の女性が立ち上がったのが株式会社エムズメディカル代表の水野氏。
自身の辛い経験をばねに開業したエステサロンは、現在、業界トップクラスの労働環境と人材育成制度を誇る。
起業に至った経緯から働き方の改革法、またコロナ禍における業界の動向についてお話を伺った。
株式会社エムズメディカル
代表取締役 水野 由美 氏
複数のエステサロンで経験を積み、23歳の時に独立、岐阜県多治見市にて開業する。店舗運営の傍らフランチャイズ事業の立ち上げも行い、現在はリンパマッサージエステサロン「ビースタイル」多治見店、各務原店、春日井店、一宮店の4店舗を運営し、スタッフの育成や独立支援に注力している。
数字しか見ない経営への不満
オールハンドによる全身ボディケアや、フェイシャルマッサージを行うリンパマッサージエステサロン「ビースタイル」は創業15年を迎え、全店黒字を維持している。
「独立、開業したのは23歳の時です。
それまでは3つのエステサロンに勤務しまして、最初に就職した会社はいわゆるブラック企業でした。
休憩時間や休日は無いも同然。昼食を食べる時間さえなく、持参したお弁当を食べるのはいつも終電の車内。激務続きの日々でした。
時代的にも、会社は売上を優先する主義で、企業のお客様に何百万円とするエステのコースを売りつけ、それが消化できないうちに次のコースを販売あっせんする指示を出されたり…。
男性だった経営者は〝結果良ければすべて良し〟。数字しか見ず、売上を作っている現場やスタッフの状況には目もくれませんでした。
そんな環境に不満を感じ、自分が経営者ならこうしたいと独立への野心を持ちはじめました。」
水野氏が独立した2007年頃はまだ女性が経営に携わる事が少なかった時代。
現在よりもジェンダー論が取り上げられない中、女性経営者として苦労もあったのではないか。
「エステティシャンとしての技術や販売能力は習得したものの、経営や集客のノウハウは全くありませんでした。
たった一人での開業だったこともあり、経営に関しては米穀店を営んでいた親を頼りにしました。
女性という点でも、開業当初は自力で起業したことを認めてもらえないことが多く、正しく評価を得られない悔しさも味わいました。」
全ての女性の応援をしたい
ビースタイルが創業当時からこだわっているのは女性専門のサロンであることだ。
「女性に絞ったのは、女性の社会的地位の向上に少しでも貢献したいという気持ちがあったからです。
社会や家庭、様々な場で活躍する全ての女性をエステという形で応援したいのです。」
女性支援の思いは社員にも通ずる。ビースタイルは全社員が女性だ。
「自分が経験した辛さをスタッフにはさせたくないと、まず働きやすい環境を整えました。
産休・育休はもちろんのこと、家庭を持つスタッフのためにフレキシブルな勤務時間制度の採用、有給休暇所得の義務化、昇給制度の明確化などです。
昇給に関しては、具体的な指数を用いた人事評価制度の仕組みを作りました。
開業当初のエステ業界における賃金は、経営者のさじ加減で決められる、不透明なものというのが一般的な概念でした。
それを改善するために、昇給の対象となる要素を定めて数値化し、その定量的な要素に人物評価となる定性的な要素を合算して、給与や賞与を決定する制度を取り入れました。そして全スタッフにその仕組みを開示しました。」
これにより社員のやる気が高まり、比例して売上も向上した。
またエステ業界にありがちな、スタッフ同士の売上の取り合いやいがみ合いは無くなり、人間関係の向上にもつながったという。
コロナ禍での業界の動向
エステサロンではサービスの中で人との接触が避けられない場であり、新型コロナウイルス感染拡大による大きな影響が業界にもあったのでは、と聞いてみると、意外な返答が返ってきた。
「この業界は95%が個人事業主のため大きな倒産は見られず、感染拡大による影響はさほど受けていないようにみられます。
今後の動向としては、非接触での施術が出来るマシンの開発や導入が進んでいます。
お客様に直接触れることなく、手による施術と変わらない効果を持つ機器です。
また、ホームケア商品も増えてきました。弊社でも機器の導入や販売を進めています。
来客に関しては、第一波が来た時には予約のほぼ無い日が続き、その穴埋めに物販へ力を注いでいましたが、第二波では、逆に来客が増加しました。
お客様は長引くコロナ禍で、疲労やストレスを抱えていらっしゃいました。
外出がままならない中、時間とお金に余裕ができたのも一因でしょう。客層としては一般事務をはじめとする会社員、看護師の方が目立ちました。
リモートワークによるストレスや、コロナによる勤務疲れの解消、またサロンという日常とは異なる空間での癒しを求める方が新規、リピーターともに増加しました。」
自身の辛い経験をフィードバックし、女性の地位向上を目指して新しい労働環境を作り上げてきた水野氏。今後の展望について伺ってみた。
「エステティシャンの社会的価値の向上は常々思っています。
サービス業は今後衰退していくと言われていますが、エステはやりがいと充実感の得られる職業です。
エステティシャンとして働く人やエステの仕事に関心がある女性を応援するために、業界全体の働き方の改善と賃金の向上を目指して今後も取り組んでいきます。
そのためには現在の生産性を見直し、新たな事業にも取り組みたいですね。」
エステサロンは営業範囲の限られる事業であり、地域の企業と連携した施策を始めたいと語る。
現在構想を固めているのは、相手企業が新たなビジネスに着手せずに事業収益を得られるシステムだ。
水野氏がより多くの女性を応援できるよう、今後の進展を見届けたい。
【今回の取材先】
株式会社 エムズメディカル
岐阜県多治見市住吉町3-53-8
☎︎0572-26-8345
https://ms-medical.jp/
ライター・編集者
広告代理店勤務を経て、現在はマーケティング・デザイン・HP制作会社である株式会社SMC-POWERでWeb記事ライティングやコンサルタント補佐を行う。