ピグマリオン効果 ~モチベーションアップにつなげましょう~

ビジネス こころと体の健康増進室【 連載 FILE 019 】

ピグマリオン効果とは、他者からの期待を受けることで学習成績が向上したり、仕事での成果が上がったりする心理効果のことです。 教師期待効果、ローゼンタール効果とも呼ばれ、1963年~1964年にかけてアメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールとフォードが行った実験により誕生しました。
ピグマリオンとは、ギリシャ神話に出てくる彫刻家の名前です。この彫刻家は自らが彫った彫像に恋をし、神がその彫像に命を吹き込むという神話が由来になったものです。

ネズミを使った実験におけるピグマリオン効果

ロバート・ローゼンタールとフォードが行ったピグマリオン効果についての実験をご紹介します。 1963年に行われた最初の実験では、被験者は大学の学生でグループA、グループBに分けられ、ネズミを用いた迷路実験を行うことを告げられました。 そして実際には個体差のないネズミを学生に渡し、グループAには「良く訓練された系統の賢いネズミ」、グループBには「訓練があまりされていない系統のネズミ」であることを伝えたのです。
本当は個体差がないので実験結果は同じになるはずですが、実際にはグループAのネズミの方が結果が良く、グループAの方がグループBよりネズミを丁寧に扱っていたこともわかりました。
この実験結果から、ロバート・ローゼンタールとフォードは教師が期待する結果に対して学生が応えたと結論付け、相手の期待に応えようとする心理は他でも働くのではないかと考えました。
そこで1964年サンフランシスコの小学校で、ハーバード式突発性学習能力予測テストと名付けた知能テストを使った実験が行われました。
学級担任には実験とは知らせず、成績が向上する生徒を割り出すための知能テストを行うと伝えて生徒たちにテストを受けさせました。
テスト後、無作為に選んだ生徒をAクラス、Bクラスに分け、学級担任にはAクラスを「成績が伸びる優秀な子供たち」Bクラスを「成績の良くない子供たち」と伝えたところ、その後Aクラスの成績が向上したのです。
この2つの実験から「人間は相手の期待に無意識に答えようとする。その結果、パフォーマンスの向上が見られる」というピグマリオン効果が確認されました。

ピグマリオン効果と類似性の高いもう1つの概念がハロー効果です。
相手の特定部分に対する評価が、相手全体の評価にまで拡大する心理効果のことです。
これは6月にお伝えした内容ですので、またそちらもご覧ください。


ハロー効果は「後光効果」「光背効果」とも呼ばれ、1920年にアメリカの心理学者エドワード・L・ソーンダイクが作成した「A Constant Error in Psychological Ratings」という論文で提唱されました。 肩書や見た目などの特定部分に対する印象で相手の評価が上がる「ポジティブ・ハロー効果」と、相手の評価が下がる「ネガティブ・ハロー効果」の2つに分類されます。
ピグマリオン効果とハロー効果は、どちらも相手への評価に関わる心理効果ですが、ピグマリオン効果は評価する側がされる側の行動に影響を及ぼしていき、ハロー効果は評価する側の認識が変化していくという点で異なります。

ピグマリオン効果がもたらすメリットについて

ピグマリオン効果は、ビジネスシーンでも特に部下育成の場面で活用できる手法です。
ピグマリオン効果を使うことで、部下の仕事の質が向上したり、成長スピードが格段に速くなったりする可能性があります。

ビジネスでピグマリオン効果を活かせる具体的方法

1, 裁量を与える
2, 期待を必ず言葉で伝える
3, 能力に応じて達成可能な課題を与える
4, 褒めることでモチベーションを維持する
5, 過剰な期待をかけない

裁量を与えることで、上司が部下に対して期待するだけではなく、部下に裁量を与えることでピグマリオン効果はより強く働きます。 なぜなら、上司が部下を信頼して仕事を任せているということを、言葉だけではなく行動で示すことになるためです。
期待を必ず言葉で伝えるとは、答えを出す過程でヒントを出し、うまく行かなかったときは、正確なフィードバックを与えたり、部下を必要な場面で褒めたりすることです。
能力に応じて達成可能な課題を与えることで自信をつけさせることになります。 小さなハードルをいくつか与えて自信を持たせ、そのあとから少し高めのハードルに挑戦させるようにするのがポイントです。
褒めることでモチベーションを維持することは、部下が努力した部分や、目標達成につながる行動を上司が具体的に評価することで、部下は自分の能力を認められたと感じ、モチベーションアップにつながるためです。 評価をする際は成果だけではなく、必ずプロセスも含めて見るようにしましょう。
過剰な期待は、プレッシャーとなって部下にのしかかり、モチベーションや仕事の成果が逆に低下してしまう可能性があります。部下の性格や現状置かれている状況に配慮し、能力値に合わせた期待をかけていく姿勢が重要です。

ピグマリオン効果がもたらすデメリットについて

ピグマリオン効果は、仕事はもちろん、プライベートやスポーツまで、様々な分野で応用できる反面、マイナスに出てしまう場合があります。
ピグマリオン効果には、元々のピグマリオン効果を実証した実験そのものへの批判、手法の批判だけではなく教育現場における「視点の不足」があることが批判されています。
つまり「教える側と教わる側」という一方的な構図だけで提示されたピグマリオン効果では、学習者(学ぶ側)が自ら学習を行うという視点が不足しているのではないかと言われているのです。
またある教育経済学者は「ただ褒めたら良いわけでなく、褒め方が重要である」と述べています。
日常のオフィスでも生活の中でも期待する言葉を投げかけるだけでは、実質的な問題解決や本人の自助努力の成長にはつながらないケースも往々にしてあります。

ピグマリオン効果をマネジメントに活用しよう

周囲の期待に応えようとするピグマリオン効果は、マネジメントにも活用できます。
ビジネスにおいては上司が部下に具体的に期待を伝え、最後は公正・公平に評価することでより効果を発揮します。相手の何か際立った特徴に引きずられて、全体の評価が歪んでしまわないようにしましょう。過度に期待をかけすぎるのももちろんプレッシャーとなり逆効果です。
相手が自信をもったり、期待されていると思えたりできるような声掛けや態度が部下や新入社員を育てます。これは子どもや友人にも応用することができますね。
あなたもピグマリオン効果を利用して、部下や後輩、子どもの能力を向上させることにチャレンジしてみませんか?