藤田弁護士の法律相談所【連載 第10回】
たとえ就業規則に定めがなくとも、従業員は労働契約に付随する誠実義務として競業避止義務を負うため、在職中の競業は禁止されています。
しかし、退職後は、職業選択の自由(憲法22条)があるため、原則、自由に競業を行うことができます。
もちろん、就業規則や合意書・誓約書で退職後の競業を禁止することはできますが、個々人の職業選択の自由を不当に制限するものとして無効と判断される場合があります。
どのような内容の競業避止義務の条項を設けておけば裁判上も有効と判断されるのでしょうか。
裁判所は、競業を禁止する期間、禁止する地域、禁止される業務の範囲、禁止の対象となる人の地位や役職、高額な退職金などの代償措置があるかどうかなどを考慮して、競業を禁止する合意の内容が必要かつ合理的な範囲のものといえるかどうかを判断する傾向にあります。
競業を禁止する期間については、1年程度であれば有効となることが多いです。
地域や禁止する行為を限定すれば有効となる可能性が高まりますが、競業を全面的に禁止する内容は無効となる可能性が高まります。
社内での地位が高い従業員や機密性の高い情報に接する従業員については退職後に競業禁止義務を課すことは許されますが、そうでない従業員に対し競業禁止義務を課すことは無効となるでしょう。
高額な退職金やストックオプションなど競業を禁止する代わりに金銭的な補償をしている場合には、有効となる可能性が高まります。
就業規則の定めや個別の合意がなくとも、職業選択の自由や自由競争の原理を逸脱するようなものであれば、不法行為を構成する場合があります。
競業を禁止する特約に違反した退職者に対してはどのような対応を取るべきでしょうか
あらかじめ、合意に違反して競業をした場合には、退職金の減額や返還を求める条項を入れておくことが考えられます。
確かに損害賠償請求をすることも考えられますが、会社に具体的な損害が発生していなければなりません。
合意に違反して競業をすることと会社に発生した損害との間に因果関係があると言えるのか問題となる場合があります。
このように、実際に損害賠償請求が認められるかケースは限定的になると言わざるを得ません。
競業禁止に違反した場合には退職金を減額したり、返還を求めることができるという合意や退職金規定は、合理的な範囲内であれば有効と判断されるでしょう。
昭和52年8月9日の最高裁判決では、同業他社への転職した場合に通常の自己都合退職の際の退職金の半分を支給するという退職金規定は有効としています。
さらに、同業他社へ転職した場合に退職金を減額するという規定があるにもかかわらず、退職金を受給した上で同業他社へ再就職した場合には、減額分について返還を求めることは許されると考えられます。
もっとも、半分などではなく、全額支給しないという内容は無効となる可能性があります。
そもそも、退職金の全額不支給については、勤続の功を抹消・減殺してしまうほどの背信行為があった場合に限り許されるとされているからです。
独立、開業はトラブルがつきもの
従業員が退職後に営業秘密等を利用して競業することを防ぐためにどのような手立てを打つべきか、独立開業を考えている人は何に気を付けて独立開業をすべきかについては、まずは弁護士にご相談ください。
多治見さかえ法律事務所 弁護士
慶應義塾大学経済学部卒業。近くで気軽に相談できる弁護士をモットーに、取引や労務に関する紛争の解決・予防に地域密着で対応中。
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