人口が減り、コロナ禍で洋服が売れない時代に突入しています。縮小傾向にあるクリーニング業界で、固定概念を覆し、新たなビジネスモデルとして顧客から絶大な信頼を獲得しているカチガワランドリー。
春日井市内に3店舗クリーニング店を経営するだけでなく、環境保全のための洗剤や古着のアップサイクルなどSDGsの取り組みでも注目を集めています。東本代表に「トヨタ生産方式」を取り入れ、抜本的に改変した仕組みとスタッフの「人づくり」に対する考え方についてお聞きしました。
株式会社 Save the Ocean 代表取締役 東本 猛
学生時代からラグビーに打ち込み、母校のラグビーコーチを経験。その後、カチガワランドリーを引き継ぐ。ラグビーコーチ時代に培った「課題解決」の考え方を経営に生かし、サスティナブルな発想で新しい取り組みに挑戦し続けている。
薄利多売な業界で取り入れた「トヨタ生産方式」
―奥様の家業であったクリーニング。未経験かつ、縮小傾向にある業界への挑戦は大変だったのでは。
大手のクリーニング会社で修行して、薄利多売の仕事だと実感しました。そこでまず取り入れたのが「トヨタ生産方式」です。
―「不良品を作らない」「ジャスト・イン・タイム」の考え方ですね。
まず、品質を上げるために「少ロット洗い」に切り替えました。うちは短い時間で洗って、ハンガーにかけて温度と風のみで乾かしています。すると一般的なクリーニングと比較してダメージが20分の1になります。そうすることでボタン欠けなどの不良が絶対に出ない仕組みにしています。
―薄利な世界で、少ロットに変えても利益は生まれるのでしょうか。
たとえ100点洗ったとしても、アイロンの仕上げ工程は1時間に20点しか上げられません。すると残り80点は放置されますよね。洗いと仕上げ、分業だからこその無駄が発生しているんです。
スタッフ一人につき、1時間で仕上げられる数に合わせて生産管理しています。このような無駄を徹底的に無くすことで、運ぶ・探す作業も減り、必然的に生産性が上がります。
―なるほど、無理やり生産性を上げると品質が下がってしまうデメリットも防げますね。
そうです。そして、年間を通した仕事量を平準化する必要もあると考えました。
―クリーニングでも生産量にバラつきがあるのでしょうか?
週単位では土日の来客が多い反面、パート中心のスタッフは少なくなります。
―その波をどのように平準化するのでしょう。
来店数はコントロールできないですが、お客様の納期はコントロールできます。多くのクリーニング店が売りにしている「当日仕上げ」は、勝手に納期を決めている状態です。一方で、僕たちはお客様に「いつ引き取りにきますか?」と納期を確認します。
「今日」の人がいれば「いつでもいい」という人もいる。その「いつでもいい」が鍵で、土曜に引き取った商品を、手が空きがちな木曜や金曜に回します。そうすると、おのずと1日に「仕上げるべき枚数」が平準化されます。
―根本的にサービスの仕組みを変更して、1日の仕事量を平準化できたのですね。
ときには「土曜日にほしい」というお客様に対しても「日曜日ではだめですか?」と聞くこともあります。一方で、当日受け取りは11時までですが、13時に礼服を持ってくる人に対して「今日、お通夜ですか?」と確認します。そういう事情がある場合は受けるようにしています。
―お客様に寄り添った考え方ですね。
決まりを決めすぎると動けなくなるけど、遊びを作ると動けますよね。それに、お客様との信頼関係が生まれるので、こちらが「この曜日ではだめですか?」と頼んでも「いいよ」と言ってもらえるんです。
―お客様とのコミュニケーションが重要ですね。
そう、受付はお客様の架け橋です。そして、仕事を受けすぎることが全体の品質と生産性を下げることにつながる。なので、適正量以上は断るようにしています。
―無駄を徹底的に省き、仕事量もコントロールして、品質向上などの差別化につながっています。
僕は、4~6月の繁忙期に合わせたマキシマムではなく、1~3月のミニマムに合わせた考え方を採用しています。人や機械、スペースの最小単位を何回もグルグル回すんです。そちらの方が実は労力が少なくなります。
現場で例えるなら、一つの機械に50点洋服を入れて回すとかごが必要になり、工場内に「かごが通るスペース」が必要です。すると、1回の動作の「歩数」が変わります。それが積み重なると1日に何歩もの「無駄」を生み出しますよね。
なので、極力工場は狭く作って、なるべく歩数を減らす仕掛けをしています。その方がスタッフも楽ですし、狭いからこそコミュニケーションや気配りができます。無駄話もできますし。
―生産性を大切にしているのに、無駄話はOK なんですか?
無駄話が一番大事だと思っています。なぜなら、無駄話ができない関係性では、本当に困った時に相談できない。話しづらい親の介護や子どもの悩みも話せる環境にするのが大事。スタッフにとって、職場が仕事でお金を貰いに来ている場所ではなく、悩みを聞いてもらえる仲間がいる場所になれば仕事に来たくなりますよ。
能動的なスタッフの育て方
―品質面での差別化が売りとなると、従業員の教育が欠かせないはずです。
まずは、安く大量に受けると繁忙期にスタッフを残業させてしまう。それは品質を下げることにつながるから安くでは受けないし、セールもしないとお客様にご理解いただいています。
そして、スタッフに対して「パートさんだから」という考え方は一切しません。誰でもどの部門も担当できますし、社員並みの研修も受けて、技術も全く引けを取りません。
また、社員だけでなくパートスタッフも一緒に、原価や利益率など経営の勉強をして、利益を上げるためのアイデア出しも全員で行います。毎月店舗決算を行い、営業会議も社員・パート全員で参加しますよ。
―全スタッフで経営状況の把握と利益を出すためのアイデア出しまで行うんですね。
クリーニング業界は年収200万の世界。だから、パート・アルバイトがメインとなる業態なんです。でも、僕は従業員みんなの給料を上げたい。社員の年収も600万を目指したい。そのためには、会社が何をやっているかの全てを社員に開示して、アイデアを出してどんどん挑戦していかなくちゃいけない。
―仕事や会社に対して能動的なスタッフが育っているんですね。
スタッフには、会社の言いなりにならなくていいと伝えています。「会社が決めたことだから」という考え方は不要で、納得できないことはやらなくていい。
そして、スタッフ自身が「やってみたい」と提案したことは失敗してもいいので全部やらせています。その方が絶対に成長できます。いまは、チャレンジができない世の中になっていると思うんです。スタッフのアイデアに対して「どうやったらできるのか」のサポートは、僕の腕の見せ所ですよね。
―スタッフからは、どのようなアイデアが出てくるんでしょうか。
主婦が中心のパートさんが多いので、いろいろなアイデアが生まれます。例えば、「同じエプロンをしたい」という提案。その理由は「スタッフみんなで一体感を持って働きたいから」って。僕にはない発想でしたね。
―仕事を通じて、スタッフ自身が成長できる環境になっていますね。
仕事の「やり方」のマニュアルは必要ありません。でも、仕事に対する「在り方」の話し合いはみんなで行います。それに、仕事で学んだ在り方はスタッフ自身の人生に生かされます。それは、僕自身がラグビーを通じて実感したことですね。
同じベクトルの考え方を持つ仲間とタッグを組む
―現在は、別事業として「海をまもる洗剤」も販売されています。その経緯を教えてください。
この仕事を始めてからずっと洗剤に対する疑問がありました。洗濯槽にヘドロのような汚れが付き、それをパイプから海や川に流すのは汚れを移動させているだけだと気付いたころに出合ったのが、石油系の合成界面活性剤を使用せずに油を分解できる「海をまもる洗剤」でした。
―家庭で使うと洗濯槽クリーナーの使用頻度が低くなる「海をまもる洗剤」。貴社のクリーニングやコインランドリーで導入しています。それも差別化につながっていますか?
チガワランドリー直営のクリーニング店とコインランドリー全店で海をまもる洗剤が使われており、全国のコインランドリーでも導入が進んでいます。人体に優しい洗剤なので、赤ちゃんのいるご家庭や肌の弱い人に非常に喜んでもらっています。
―SDGsの取り組みとしても共感を集めそうです。
この洗剤に限らず、古着のアップサイクルの取り組みの一環としてJR中央線・勝川駅にある駅前店を「スローファッション」を掲げるクリーニング店にリニューアルしました。1階には多治見市の古着店「Chic…!」がセレクトした服が並び、2階には国産ウール素材で、国内縫製のオーダースーツを注文できます。
これらは、クリーニングの「洗う」という業種から「つくる」を目指した動きです。洗うことで環境をつくり、洗うことで服のプラットフォームや作り手との人間関係をつくる。それらをカチガワランドリーが担えたらいいですね。
―最後にOHACO読者に向けてのメッセージをお願いします。
僕たちに大切なのはどういう社会課題があり、どういうサプライチェーンを作っていけば、この問題が解決していくかを考えること。そして、同じベクトルでものを考えられる人とタッグを組んでいくのかが大切だと思います。
―そういう仲間と出会うコツはありますか?
「こういうことがしたい」と言い続けていることですかね。やりたいことは、ちゃんと言葉にして伝えなくちゃいけない。響かないことも多いけど、たまに共感してくれる人が現れるんですよ。
【今回の取材先】
株式会社 Save the Ocean
所在地:愛知県春日井市中切町1-5-4
設立:1957年5月
従業員数:11名(2021年10月現在)
年商:1億3,000万円
URL:http://www.kachigawa.com/
編集者・ライター
ビジネスメディア『OHACO』の特集企画・取材を担当。アパレルデザイナーという異業種からライター・編集者に転身。得意なジャンルは、企業取材、環境活動・SDGs、ファッション産業など