【さかさま不動産】空き家活用!社会課題の解決で共感を生むPR型事業とは

物件を探す借主のストーリーをサイトに掲載し、家主を募集する「さかさま不動産」は、従来の不動産ビジネスからすると逆転の発想。
「空き家活用」という社会課題に取り組むことで共感され、さかさま不動産を運営する株式会社On-CoはPR型事業で発展を続けています。

同社共同代表の水谷さん、藤田さんにさかさま不動産の成り立ちや社会課題への姿勢、メディアを巻き込むPR型事業などについてお聞きしました。

代表取締役 水谷 岳史
1988年生まれ。家業である造園業に従事し、デザインや施工、設計管理スキルを習得。同時に空き家を活用したシェアハウスや飲食店を数軒運営。ライフデザインやコミュニティ形成に取り組んだ。誰もが自由に挑戦と失敗ができる社会を目指して実証実験を続けている。

代表取締役 藤田 恭兵
1992年生まれ。大学時代に新社会人向けの教育コンテンツ作成とコミュニティ運営事業を行う合同会社を設立。その後、集まれる場の必要性を感じ、2015年から水谷が手掛けていたシェアハウス運営にコミット。クライアントからの課題は大喜利として取り組み、人との関係性や信頼が解決の一助にならないか模索中。

10年分くらいの原体験が僕たちにはあった

―さかさま不動産の仕組みを思いついたきっかけは?

水谷:
2011年から名古屋で友人と空き家を改修してシェアハウスや飲食店を運営していました。自分たちの手で改装しながらみんなで住む感覚が、僕の原体験です。そのうちに、近所の人が僕たちのことを知ってくれて、「君たちだったらいいよ。自分で直すでしょ」とどんどん物件を貸してもらえ、最終的には8、9軒借りました。なぜ借りられたかというと、僕たちは自分たちのやりたいことと実績を伝えていたから。それをアーカイブする機能があったら、もっと多くの人がいろいろな不動産を借りられることになるはずと考えたのがきっかけです。

―コミュニティに藤田さんも遊びに来て、物件を探し始めたんですね。

水谷:
僕も22歳の時に名古屋駅周辺でシェアハウスをやるために、街ゆく人に自己紹介しつつ声をかけて探していたら「お前らはいいやつだから大家さんを紹介してやろう」と破格で貸してもらえました。中学生の小遣い程度で物件や空き家が借りられるようになれば、空き家問題も解決されるし、もっと挑戦できる面白い若者が増えるだろうと。

―自分たちの経験の中から出てきた発想なんですね。

水谷:
そう、「ベンチャー企業で不動産マッチングシステムを作りました」ではなくて、10年分くらいの原体験が僕たちにはあったんです。

藤田:
僕らの原体験となる現象は「あまり知らないけれど、お前のことは信頼できる」という関係性が作れたから生まれました。一瞬でその関係性がどうやったら作れるのかを、僕はさかさま不動産で証明してみたいです。

―国内で空き家の割合が13%を超えて社会問題になっています。さかさま不動産の仕組みは、貸す側にとってもメリットがあるのでしょうか。


水谷:
基本的に不動産の流通は、不動産ありきで情報公開しています。でも、実家の開示したくない情報や近所との付き合い、物件を借りた人が揉めたら家主が責任を問われるなどの障壁があると物件は流通しません。さかさま不動産の最大の特徴は不動産情報がないこと。大家さんは内緒で探せます。

「空き家を貸す」という応援の形

水谷:
空き家問題、一番の課題は「貸したいと思っていない物件」をどう流通させるか。「どうしよう……」と宙に浮いている物件が空き家の半数以上を占めていると思います。その人たちがアクションを起こすには、ストーリーが大事です。たとえば、「喫茶店のマスターをやりたいという夢が僕は叶えられなかったけれど、カフェをやりたい若い子がいるなら」とその子を応援するような気持ちで貸す。クラウドファンディングの物件バージョン、大家さんとしての投資ですね。大家さんになることで違う世代とつながりもできます。

―さかさま不動産のマッチング状況は?

藤田:
いま70軒掲載していて(21年9月現在)マッチング数は9組。それが多いのかどうかは分からないですが、誰も解決できなかった空き家問題をそのペースで数字を出せているのはすごい、とよく言われます。

さかさま不動産でマッチングした瀬戸市の自転車店

―なぜさかさま不動産では、マッチング手数料をもらわないのでしょうか。

水谷:
不動産の仲介は、不動産価値が安いほど手数料も少ない。空き家を安く貸して、若手を応援したいと思っているので、仲介手数料をもらっても成り立たないです。
結局、不動産のビジネスモデルは「発展」が大前提として成り立っているので、経済が落ち込んで家が余っている状態だったら成り立たない。

それに、そもそもビジネスモデルが通用しなかったから社会課題として取り残されている。だったらビジネスモデルのレイヤーから見ても答えはないだろうと。じゃあ、僕らは「ビジネスモデルを外してやってみたら、どんなことが起きるのか実験してみよう」とさかさま不動産をやっているんです。そもそも「社会課題を解決したい」が最初のゴールなので、ビジネスの必要があるのかという考えです。

藤田:
一般的に不動産賃貸のプロセスは、問合せから契約まですごく長いし、お金もかかる。それは家主と借主の関係構築のためにやっている。そういった不動産のシステムから漏れ出た存在が、空き家や「変な人には貸したくない」という大家さん。醸成された不動産市場から漏れ出ているものを有効活用するのがさかさま不動産なんじゃないかな。

水谷:
よく「マッチングした物件の建築に入るんだよね」と言われるんですが、基本的にはやりません。さかさま不動産は全国展開したいので、僕らの建築が紐づく必要はない。田舎に行けば行くほど、地元の事業者さんと関係作りながら進めた方がいいです。

メディアを巻き込み加速したPR型事業

株式会社On-Coとしてのビジネスモデルはどう成り立たせているのでしょうか。

水谷:
今回の取材のように、誌面を作って、多くの人が読んでくれたら大きな宣伝効果がありますよね。それはものすごく価値が高いことです。今までOn-Coでは約100回、さかさま不動産で約40回以上取材してもらいました。メディアを通じて僕らの社名が勝手に広がっていく中で、「こういう課題があるんですけど、できますか?」と仕事が生まれる。
だから、今はさかさま不動産自体にはビジネスモデルが必要ない。新しいサービスを作って、広めていることが僕たちしかできない「独自性のあるPR」だとすると、そのノウハウをどんどん広めていきたい。
そして、関わる人を増やし、各自の取り組みを加速させるサポートをすることが結果的に仲間づくりにつながっています。

―そういった「PR型事業」を学びたい、うちでやってほしいというクライアントが集まったんですね。

水谷:
僕は企画側の人間なので「PRすること=企画」です。価値づくりと関係性づくりを基軸に展開しているPR担当のメンバーと連携して、企画を進めています。

―多くのメディアに取り上げられる秘訣はありますか。

水谷:
メディアの人の仕事は社会のニュースを報じることです。なので、定期的に情報交換をしてメディアの視点に触れ、企画に生かしています。
あと僕も藤田も、メディアに電話して「こういう企画を考えているんだけど、どう?」と聞きます。日々膨大なニュースソースに触れ、物事を比較しているメディアの人が面白いと言ったら革新性と社会性があるはず。もちろん一つの側面ですけどね。メディアに出るために企画を考えているわけではないので。

―では最後に、「On-Co流PR企画術」を教えてください。

水谷:
ビジネスモデルにならないことからやる。「損して得取れ」に似ていますが、社会課題に取り組みたいなら、最初からビジネスモデルを作らない。ビジネスになったら、そもそも課題になっていないという考え方です。
それに机上の空論は、コロナ禍ですべて崩壊して、予定が狂ったじゃないですか。3年後に黒字になる事業計画を構築して始めても、3年後なんて現実的に考えても変わっているはずなので、黒字になるか分からないことを今から始めて、やりながら考えるでもいいんじゃないですか。
スモールステップで実証実験的に進め、起きた現象をまた次のステップに生かしていく。

藤田:
僕らはPR型事業としてまとめていますが、その広がり方は少しずつ共感してくれる人が増えて、それがたまたま借主や大家さんだったり、行政や経営者で仕事を頂ける人だったりするんです。
こんなに仲間になってくれたのは共感性のある社会課題だったからですね。自社ビジネスのためではなく、関わる人たちを増やしていきたいです。

【今回の取材先】
株式会社On-Co
所在地:三重県桑名市西別所1375
設立:2019年3月
従業員数:4名(2021年9月現在)
URL:https://sakasama-fudosan.com/

(取材・文:笹田理恵 /編集:OHACO編集部)