ウェルビーイング(well-being)という言葉をご存じでしょうか。もともと医療や看護、社会福祉の分野で使われていた言葉ですが、近年は働きやすさの基準としてとらえられ、さまざまな分野で使われるようになりました。その背景には、どのようなことがあるのでしょうか。
今回は、ウェルビーイングの意味に加え、ビジネスへの影響やメリット、従業員のウェルビーイングの高め方についても紹介します。
1.ウェルビーイングとは
ウェルビーイング(well-being)を直訳すると、「幸福」「福祉」「健康」という意味になります。
世界保健機関(WHO)憲章前文では、「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます」と述べられています。
このことから、健康とは身体的に病気がないだけでなく、精神的にも社会的にも満たされている状態を意味します。
2.ウェルビーイングが注目される背景
冒頭でも述べたように、ウェルビーイングという言葉は医療や看護、福祉の分野で使われていました、それがさまざまな分野で使われ、注目されるようになった背景には、どのようなことがあるのでしょうか。
多様性を認める社会
1つ目には、多様性を認める社会が求められるようになったことが挙げられます。
最近、メディアで「ダイバーシティ」という言葉を見たり聞いたりする機会が増えました。ダイバーシティは、多様性という意味です。
グローバル化が進み、さまざまなバックグラウンドを持った人々とコミュニケーションを取る機会が増えました。そして、今後も増え続けていくことでしょう。それぞれが能力を十分に発揮して円滑にコミュニケーションを取るには多様性を認め、そのためにはウェルビーイングが必要だと考えられています。
人材確保
2つ目には、人材確保が求められていることが挙げられます。
将来、日本はこのまま少子高齢化が進み、労働力人口、労働力率とも減少することが予測されています。現在、労働力をアップさせるため、病気の治療や育児・介護と両立しながら働ける環境整備、働き方改革が進められています。このような施策に対応するためにも、ウェルビーイングは必要です。
SDGsの一部に組み込まれる
3つ目には、ウェルビーイングの考え方が、SDGs(エス・ディー・ジー・ズ)の中に組み込まれたことが挙げられます。
SDGsは持続可能な開発目標という意味で、2015年の国連サミットで採択された、2030年までに達成を目指す国際目標です。SDGs は、17のゴール(目標)と169のターゲット(具体的目標)で構成されており、3つ目のゴールとして「すべての人に健康と福祉を」が位置づけられています。
働き方改革
4つ目には、働き方改革の推進が挙げられます。
2019年から国によって働き方改革が行われており、長時間労働の是正や多様な働き方が推進されています。また、2020年から続くコロナ禍によるリモートワークの拡大に伴い、精神面の不調を抱えるケースが増えています。このような働き方に対しても、ウェルビーイングが求められています。
3.ビジネスの側面から見たウェルビーイング
ここでは、ビジネスの側面から見て、どのようなウェルビーイングがあるかについて考えてみます。
キャリアウェルビーイング
キャリアウェルビーイング(career well-being)は、仕事と私生活におけるキャリア構築に関する幸福という意味です。
キャリアと聞くと、仕事の能力や経歴を思い浮かべるかもしれませんが、ここでは家事や育児、勉強、ボランティア活動なども含まれます。1日の過ごし方に満足しているかという意味もあり、ビジネスの側面で見るとワーク・ライフ・バランスととらえるとよいでしょう。
ソーシャルウェルビーイング
ソーシャルウェルビーイング(social well-being)は社会的な幸福、つまり人間関係の幸福という意味です。
人脈の多さだけでなく、信頼や愛情があるかどうかもポイントです。ビジネスの側面では、上司と部下、同僚との関係などを指します。
フィナンシャルウェルビーイング
フィナンシャルウェルビーイング(financial well-being)は、経済的な幸福です。
快適な生活を送れるだけのお金を持っていること、資産管理ができることなどが該当します。
フィジカルウェルビーイング
フィジカル ウェルビーイング(physical well-being)は、身体的な幸福という意味です。
身体的な健康はもちろんのこと、思いどおりに行動できるだけのエネルギーがあることも該当します。また、ビジネスの側面では、仕事に対するモチベーションも含まれます。
コミュニティウェルビーイング
コミュニティウェルビーイング(community well-being)は、周辺にあるコミュニティとの幸福です。
周辺のコミュニティには、自宅周辺や家族、親戚、友達、学校などが挙げられます。ビジネスでは、会社や所属部署、取引先が該当します。
4.ウェルビーイングを高めるメリット
ビジネスにも良好なウェルビーイングが求められており、さまざまな種類のウェルビーイングがあることがわかりました。では、ウェルビーイングを高めるメリットとは何でしょうか。
従業員のモチベーションと業績の向上
職場のウェルビーイングが良好な場合、従業員のモチベーションの向上につながります。モチベーションが向上すれば業務効率が改善し、業績も上がります。それにより会社への貢献度も上がるため、ウェルビーイングに取り組む大きなメリットになると言えます。
離職の抑制
従業員のモチベーションが向上し業績も上がれば、仕事への満足度も上がり、会社への不満が減ります。そのため、従業員は会社に長く勤めてくれるようになり、離職の抑制につながります。離職が抑制されれば、社員教育に費やしてきたコストも抑えられます。
長く勤めてくれるということは、会社への愛着が増していると考えられます。そのような従業員が管理職や幹部になることで部下への教育が行き渡りやすくなり、企業力を高めることにつながります。
優秀な人材の確保
離職率が低下し、長く勤める従業員が多い会社は、それだけの魅力がある、従業員を大切にしている、職場環境が整っていると外部から認識されやすくなります。そうなれば求人への応募が増え、優秀な人材の確保につながるでしょう。
5.従業員のウェルビーイングを高める方法
ウェルビーイングが良好であれば、従業員のモチベーション向上、業務効率の改善、業績の向上、離職抑制と好循環が起こります。ここでは、従業員のウェルビーイングを高める方法について考えてみます。
良好な人間関係の構築
上司にも意見が言える、ちょっとしたことでも話し合える職場の風土は、従業員のウェルビーイングを高めます。
日頃の業務成果や行動に対し、感謝を伝えたり、小額のインセンティブ(成果給)を贈ったりする「ピアボーナス制度」というものがあります。「peer(仲間)」「bonus(報酬)」からくる造語で、賞賛し合う文化を育て、コミュニケーションを活性化する効果があります。
また、社内にリフレッシュコーナーやオープンスペースを作るなどして、コミュニケーションが取りやすく、風通しのよい職場環境を構築することも効果的です。
キャリアの充実
誰もが働きやすい職場にするためには、時間外勤務や休日出勤を抑えたり、育児や介護を支援したりする制度を整備し、活用しやすくすることも重要です。
例えば、ある企業では、残業時間を前年から20%削減し有給休暇を完全に取得した従業員には、本来支給するはずだった残業代をインセンティブとして支給する制度を創設しました。それにより、ひと月当たりの平均残業時間は約半分になり、有給休暇の取得率が向上しました。
また、男性従業員に対して育児休暇の取得を啓発する活動を行った企業では、育児休暇の取得率が対象者の4割を占める結果となりました。そして、要介護の家族を持つ従業員には、無期限で介護休暇を取得できたり、帰省する際に補助金を支給したりする制度を導入し、従業員の経済的・精神的な負担軽減を図っている企業もあります。
心身状態の維持・向上
いくら職場環境を整えても、心身が健康でなければ意味がありません。定期健診はもちろんのこと、さまざまな面から心身をサポートすることも大切です。
ある企業では毎年、全従業員に対し健康に関する個人面談を行い、個別にセルフ・ケア指導を行い、セルフ・ケア度を可視化する取り組みを行っています。これにより、総実労働時間を削減し、健康を意識することで業務効率も向上しました。
また、「健康マイレージ」というプログラムを導入し、健康に関するイベントへの参加を促進したり、コロナ禍のリモートワークにより孤独を抱えている従業員に対しオンラインでのラジオ体操を企画したりしている企業もあります。
6.まとめ
日本の将来の労働力や多様性への対応が求められることを踏まえると、ウェルビーイングを高めることは、今後ますます重要になってくると考えられます。企業や従業員の幸せのためにできることを、ウェルビーイングの視点で考えることが大切です。
編集者・ライター
フリーの編集者。書籍や情報誌などのデザインを携わる。主に看護・介護業界の情報誌の編集に携わり、グルメ・カルチャー・スポーツのジャンルの編集の経験あり。